銀幕という名の通過儀礼 (その2)

聖クリストフォロスの祝日、味の素の日、かき氷の日(夏氷の日)
日清戦争はじまる(1894年)
山形県で日本の最高気温40度8分を記録(1933年)
日本住宅公団が発足、「DK(ダイニングキッチン)」の表示が使われるように(1955年)

* * * * *

【映画】
b0059565_1385894.jpg

「お嬢に見せたい名画・第2弾鑑賞」は、ミュージカルの「雨に唄えば(Singin' in the Rain)」です。私の、一番のお気に入り映画の一つです。
仲良しの友達母子が一緒だったおかげで、この映画にふさわしく、楽しくにぎやかな鑑賞となりました。

この日もまた、映画館は大賑わいの満員状態。
私達の横のシートを占領したのは、10人ぐらいのおばさま達の団体さんだったのですが、彼女達がいかにも、「この映画が昔から大好きで、今日は皆で来ずにはいられなかったのよ!」というムードいっぱいのはしゃぎよう。
しかし、こういったファンは彼女達だけではなかったようで、映画の前後は勿論、上映中もダンスシーンのたびに何度も拍手が沸き起こり、歓声やかけ声も何度も上がり。
スクリーンを観ているのではなく、まるで生の舞台を観ているような、そんな楽しい錯覚さえ覚えた一時でした。




以前、フレッド・アステアについての日記を書いたことがありますが。
この映画の監督・主演をつとめたジーン・ケリーは、アステアと並んで、MGMスタジオの二枚看板として、ハリウッドの黄金期を代表する俳優・ダンサーです。
ダンサーや歌手としてだけでなく、監督や脚本、振り付けもつとめ、次々と新しいアイディアを生み出し実現したケリーは、正にマルチタレントの名にふさわしく。
「錨を上げて」(1945)の、アニメーションの「トムとジェリー」との共演ダンスシーン。
「巴里のアメリカ人」(1951)での、ガーシュインの曲と印象派の絵画を取り入れたモダンダンス。
大胆で大掛かりで、あくまでプロの芸人として。娯楽に徹した彼のダンスと映画は、いつも私に、骨太な興奮をもたらしてくれます。

中でも、この「雨に唄えば」は。
良い意味で、シリアスなところが一切なく。隅から隅まで、エンターテイメント一色で。
色々とイヤなことがたまってる時でも、これを観てれば、その間はすっかり忘れていられて、ただただ笑って、リズムにのって。そんなことができる映画なり本なりを確保できている、という信頼感も手伝って。

しかし、「ただひたすらに楽しい」映画でさえ、ケリーを始めとする出演者達が、手を抜いているところは微塵もありません。
この映画が大抜擢となった相手役のデビー・レイノルズ(キャリー・フィッシャーのお母さん)は、見事なタップやダンスを披露してくれますが、なんとこの映画の前まで、ほとんど素人だったそう。それが出演が決まってから、教師について、1日7~8時間・3ヶ月間のダンスレッスンをみっちり受けた結果、ケリーの相手役にふさわしいだけの技量を身につけたそうです。
更に、もう一人の主役との声も高い、ドナルド・オコナー。「Make 'Em Laugh」のソロダンス(壁をのぼって宙返り!)で、一躍トップスターの仲間入りをした彼は、この後の別な映画で、ゴールデン・グローブ賞を受賞します。

そして、今回初めて知って驚いたことは、敵役(?)のリナ・ラモントを演じたジーン・ヘイゲンについてです。
悪声この上ない女優、という役柄で、全編通じて、ガラスに爪を立てるような声でしゃべっているのですが。これが地声だったら、この人は一生他の役はできなかろう、なんて思っていたら、そんなわけがないんでした。
それどころか、映画の中では、デビー演じるところのキャシーが、リナの声の吹き替えをする、という設定なのですけれど、あれはジーン・ヘイゲン自身の本当の声だそうで。むしろ真逆に、デビーがジーンの声の吹き替えを演じているシーンでは、ジーンが自分の声で演じて歌って、それをデビーが演じて歌っているように見せているんだそうですよ。
これだけ何回も観てきた映画ですが、相変わらずな~~~んも疑問に思わず、ただその作品を楽しむ、という怠惰な姿勢のせいで、こんなに長い間たってから知った事実でありました……というか、事実とされています。(驚きすぎてまだ信じきれてない)

ジーン・ケリーのダンスの見事さについては、今更言うまでもないこと。
アステアの芸術性さえ香るダンスと比べて、泥臭い・垢抜けない、という評価もありますが。
私はむしろ、彼のそのアクの強さ、観てくれよ!と言わんばかりの派手なアピールなどなど、映画のタイトルではありませんが、「これぞエンターテイメント!」と全身で主張しているような、彼のダンスが大好きなのです。
スタントを使わないことでも有名で、どんなシーンでも必ず自分でこなす。今までの映画感想でも度々述べてきた言葉ですが、「職人芸」という言葉が真に生きていた頃の、代表選手と呼ぶのにふさわしい。

オコナーとの丁々発止のやりとりのような、クイックダンスも素晴しいですが、圧巻はむしろスローなテンポの、「雨に唄えば」のシーンに他なりません。
愛という幸せに酔っている彼の、地についてないような足取りで、しかし立てるタップの音は、常に確実で快く。見ているこちらまでうっとりと、柔らかい雲の上を歩いているような。雨は身体を塗らしているのに、それは全て甘い滴が、優しく温めていくだけで。

b0059565_13141763.jpg

このシーンが始まる前に、お隣のおばさまが興奮した声で、
「Here he comes!」
と小さく叫んだのですが。
曲の途中で周りにそっと目をやると、手を握り締めて身を乗り出している人達の、なんと多いことか。
終わった後は、当然のような満場の大拍手。


異国の地で、今は昔のアメリカという国への憧憬も抱きながらの鑑賞を続けていただけでしたが。
その当地でも、お互いの思いの丈は違っても、このフィルムへの愛情の強さは本物で。
この年齢になってから、大スクリーンの前で、我々の愛着を共に分け合う時が来るなんて、想像したこともありませんでした。

共に笑って、共に胸を高鳴らせて。同じシーンに、同じように覚える懐かしさ。
大好きな作品を観ながら、あまりにほっこりと幸せで。
ここに、真からハリウッド黄金期の映画ファンと言える父が、一緒にいられたらどんなにか、と。


観終わった後で友人が、今までは思ったことなかったのに、今回はこう思った、という新しい視点での感想を教えてくれまして。
それが彼女自身の変化、例えば結婚したこと・子供を持ったことを経て生まれたものだ、と感じられる優しい感想で、その横ではしゃぎ合う娘達を姿を見ながら、しみじみと温かいものを噛みしめたのですが。

観ている人間も大きく変わらざるをえないほどの年月を経ても、いまだに愛されてやまない映画があるとすれば。
この作品は間違いなく、そのうちの一本に選ばれるだけの、価値とファンを持っている、と思うのです。
[PR]
by senrufan | 2008-07-25 13:08 | Trackback | Comments(10)
トラックバックURL : https://senrufan.exblog.jp/tb/9157943
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by シーラ at 2008-07-27 17:23 x
1960年代後半、中学二年生のときのことです。
日曜洋画劇場で紹介された「雨に歌えば」を観た友人が興奮して、フレッドアステアの素晴らしさをうっとりと恋する乙女の表情で、語ってくれました。
モンキーズの映画に興奮するならいざ知らずとミーハーな私としては、そんな古い映画・・・そして「おじさん」の何処がいいわけ~?!と「奇異な現象」として覚えておりました。
フレッドアステアという名前も彼女が何度も繰り替えさなければ覚えないままだったかも。
ほどなくタップダンスを習い始めた彼女・・・今でもステップを踏んでいるやも・・
ふふふ、この日記でそんな懐旧シーン蘇らせていただけたわ~

Commented by マミィ at 2008-07-28 00:15 x
国籍も年齢も問わず、ただひたすらにこの映画が好きな人たちが集まったんですね。歓声や拍手の沸き起こる映画館内の雰囲気が伝わって来ました。

今朝ブログを読ませてもらってから、今日は一日中Singin' In The Rainのメロディが頭から離れなかったです。とはいえ、歌詞はこのタイトルの部分しか知らないので、「シーーーンギィインザレィーーン、シーーーンギィインザレィーン、シーーンギィインザレィーーン、アーシーーンギィインザレィーーン・・・」ってな具合で・・・(恥)
Commented by すれっぢ at 2008-07-28 00:17 x
有名な雨踊り(勝手に命名)のシーンとか断片でしか見たことないんです
よね~。なので、話の筋も知らず。映画館の大スクリーンで見られるって
いいですね。どっかでやってくれないかな~。
Commented by peartree22 at 2008-07-28 10:32
ずーっと実家滞在だった週末、Miyukiさんのブログは夏休みの楽しさてんこもりなので、もうドキドキ、わくわく!
こんな映画館があるというのがアメリカがまさに映画が文化として確立されている証ですね。入り浸りたい!!!!(笑)。
育児・出産してから遠ざかっている映画館。映画もじっくり腰を落ち着けて観たい性分なので、DVDを借りてみることもわずかでして。
家にはビデオもありませんでしたし、映画館は「行くとチ●ンの餌食になる」と許可がもらえず、初めてTV以外で映画を観たのはなんと大学生になってからという私。そのせいか、時間があると映画館に通いました。
大学時代、セレクトした映画(主にヨーロッパとこうしたハリウッド全盛期の映画)を上映する映画館があって。「雨に唄えば」も「ローマの休日」もスクリーンで観たのはその映画館で。
私も娘に魅せたい映画のひとつです。
Commented by Miyuki at 2008-07-28 11:01 x
*シーラさん
中2の頃のことを覚えていらっしゃるなんてすごいですー! アステア、彼もほんとに見事なダンサーですよね~。お友達が惚れ込むの、わかりますよ! しかもそれでタップを始められたなんて、これぞ映画パワー。今も続けていらっしゃると良いですねえvv

でね、シーラさん、「雨に唄えば」はアステアじゃなくて、ジーン・ケリーなんですよ。(にっこり)
Commented by Miyuki at 2008-07-28 11:03 x
*マミィさん
少しは伝わってくれたでしょうか、私のわくわく感? 文才がなくて、思うように言えないのがもどかしく~~。

でも歌の呪い(?)は伝わったようですね、ふっふっふ。私も以前マミィさん日記を拝読した後、メロディが頭から離れねーっ!という時がありましたなあ、そういえば(笑)
Commented by Miyuki at 2008-07-28 11:05 x
*すれっぢさん
ああ、ごめんなさい、知ってる方が多いと思って、ストーリーは省いてしまいました。でもやはり雨踊りはご存知でしたか~。MGMを代表するシーンの一つですもんね。いつか機会があったらご覧下さいませ。あ、でもミュージカルがお嫌でなければ、ですが!
Commented by Miyuki at 2008-07-28 11:11 x
*ちゃんさま
あはは、旅行も遠出もない、地元密着以外のナニモノでもない娯楽ばかりですが、そう言っていただけて恐縮です~。
この映画館、入り浸る価値ありますよー。劇場の雰囲気も良くて。
あ、私も私も! 名画を観まくったのは大学時代です! 授業が終わると日比谷や銀座の名画館に行って。
娘がこの年になって嬉しいのは、こうやって一緒に行ける・楽しめる娯楽が増えたこと。アネネちゃんの成長、待たれますね~vv
Commented by シーラ at 2008-07-29 12:31 x
あははは(忍法:笑い誤魔~)大汗
Commented by Miyuki at 2008-07-29 22:42 x
*シーラさん
うふふふふ~~~~vv(シーラさんの言葉であれば何でも極上と思ってる)


<< 深い思考は良い思考 異なる文化をいつもの場所で >>