銀幕という名の通過儀礼 (その1)

海の日、破防法公布記念日、神前結婚記念日
初代駐日総領事ハリス来る(1856年)
第一回文化功労者選定(1951年)

* * * * *

【映画】
b0059565_10512853.jpg

以前にも何度か日記に書いてまいりました、地元ダウンタウンにある、オールドムービー専門の映画館
特に夏の間は、人気作品を一挙公開という感じで、垂涎モノの作品がずらりと並びます。

今年の夏も、プログラムを見るなり、「ええーっ、あれもこれもそれも、ああああ!!」と絶叫したのでありますが。(やかましい)
いかんせん、こちらの上映時間は全て夜。見事にお嬢の毎日のスイミングと時間が重なり、平日鑑賞は全く叶わず、地団駄を踏むばかり。
しかし週末にかけての上映作品も勿論あり。その中でも特に観たいものを選んで、夏の予定にしっかり組み入れたのでございます。

この場合の「特に観たいもの」とは、すなわち、「お嬢に特に観せたいもの」とイコールでありました。
元々それほど映画好きでもない、出不精の彼女を連れて行くのは、それなりの工夫がいるのですが。(例:脅し、すかし)
それでも、「この年齢のうちに読んでほしい本」というものがあるように。「これを観てから大人になってほしい」と願ってしまうような名画が、この世界には何本も存在するのであって。

この夏の上映プログラムに、そういった作品が並んでいたのは、きっと何かの印かなあ、と。
大変自分に都合のいい解釈を試みてから、3本の映画に一緒に行く約束を、彼女に取りつけたのでありました。
幸い、内2本は、仲の良い友人母子と一緒だったので、より楽しい一時となってくれたのでありますよ。




まずは1本目として、「Roman Holiday(ローマの休日)」です。
永遠の妖精と謳われた、オードリー・ヘップバーンの映画デビュー作であり、アカデミー主演女優賞の受賞作でもあります。
公開は1953年の8月ですから、なんとすでに半世紀が過ぎた計算に。しかし、時と共にその魅力が褪せるどころか、観るたびに新しい感動をもたらせてくれる。そんな稀有な名画の一つです。

上映時間の15分前に映画館に到着したのですが、そこでまず目にしたのは、1ブロック以上にずらーっ!と連なる人の行列。今まで何度も通った映画館ですが、ここまでの列は目にしたことがなく。改めてヘップバーンと、この映画の人気に驚いた次第です。
場内も1階・2階と合わせて、結構な人数が入れるのですが、この日はほぼ満員状態でした。

b0059565_1055579.jpg

ストーリーについては、知らない方のほうが少ないと思われますが。
とあるヨーロッパの小国の王女アンは、欧州各国を歴訪中。イタリアはローマに滞在していた折、過密スケジュールに嫌気がさして逃げ出し、そこでアメリカ人新聞記者のジョー・ブラッドレーと出会う、という筋立て。
王女と記者。一日限りの冒険。身分違いの恋。これらの言葉の代名詞として使われるようになったほど、この映画が人々に与えた感動は大変なものでありました。

今まで、数え切れないほどの回数、この映画を観てきましたが。当然それらは字幕、もしくは吹き替えであったわけで。
今回は初めてチャレンジする原語オンリー版。セリフはもうすでに知っているものばかりのはずが、実は細かい一語一語を覚えているわけではない自分を発見し、情けない気持ちに陥ったことと、または大意は同様であるものの、原語はこんなにも違うのか、と、米国に渡ってから再鑑賞かなった映画すべてに共通することを、改めて実感した次第です。
しかし、ほんとにセリフが聞き取りづらいこと! 古い映画だから仕方がないことに加えて、アン王女の独得の王族(?)アクセント。
相変わらずの自分の英語能力のひどさに涙しそうになったら、隣でお嬢が、
「うわー、すごく聞きにくい……」
と呟いたので、あっさり浮上できました。(ちょー単純)


それでも、ヘップバーンの生の声が、脚本そのままのセリフを語るのを聞く、この幸福感。たとえ全ては理解できなくとも。(ハンカチを噛む)
王女にふさわしく、何ヶ国語も操るであろうという役柄なのですが、実はヘップバーン自身、5ヶ国語ペラペラだったのですね。
しかしその背景には、第二次世界大戦時の、反ナチス運動に絡む悲惨な体験や、様々な遍歴があり。欧州という、一つの陸地で繋がった国々の中で生まれ育つことには、こういう側面がある、という事実を、彼女を通しても垣間見ることができ。
晩年のヘップバーンは、ユニセフの親善大使としても活躍しましたが、こういう経験を持ち、技能を持ち、素晴しい笑顔を持つに至った彼女は、正に適任であったと言えるのでしょう。

b0059565_1055358.jpg

彼女の前でも後でも、数え切れない女優さんが映画界に登場しましたが。
それでも、どうしてこんなに美しい人がいるのか、とため息をつくばかりの美貌と魅力が、このフィルムの中に閉じ込められています。

初めて王女として姿を現した時は、デコルテ姿の気品はすばらしいものの、どこか人形のような美しさで。
それが、ジョーに出会い、ローマの街中を歩くにつれて、その一歩一歩で新しい何かをつかみとっていくごとくに、ぐんぐんと魅力を増していきます。
瞳が違う。笑顔が違う。一瞬前の彼女は、すでに振り返ることのない過去のもの。
ストーリーも展開も全てわかっているのに、ここまで惹きつけられて放されることのない魅力。

勿論、相手役のグレゴリー・ペックのすばらしさも忘れてはいけません。
が、今回鑑賞してみて、正直なところ、やや彼に物足りなさを感じたことも否めません。
ヘップバーンのあまりに生き生きした魅力に対して、彼の影の薄さというか、情熱に欠けるようなもどかしさ。
今まで感じたことがなかっただけに、これは私側の変化のせいであるのでしょう。
年をとって、戻れることのない若さを更に愛おしく思うようになって。アンがますます眩しく映る、そんな理由なのかもしれません。


一日の冒険を終えて、ジョーと別れて、アンが大使館に戻った後。ここから先こそ、全身を耳にして、一語一語を味わいました。勿論、お嬢の多大なる助けを得ながら。(感謝)
お付の公爵夫人達に、「王女としての義務」について説かれそうになった時。
「Please do not use that word. Were I not entirely aware of my duty to my family and to my country, I would not have come back tonight... or indeed ever again」
たった一日で、別人のようになったアンの、王女としての。プライドと義務と情熱の全てを背負った、哀しいまでの凛々しさに。

そして、ラストへと繋がっていく、記者会見のシーンでは。
「And what, in the opinion of Your Highness, is the outlook for friendship among nations?」
「I have every faith in it... as I have faith in relations between people
彼女の意図するところの本当の意味を、唯一知るジョーの、励ましの言葉が続くのですが。
一日前までは、ただ言われるままに挨拶し、スピーチするだけの美しい王女であったアンが。確かに扉を一つ開けて、階段を昇ったのだ、と実感できる遣り取りの一つです。

彼女が夢のような一日の後で、新しく身につけた強固な仮面を、それでも破らずにいられなかったのは。

「Which of the cities visited did Your Highness enjoy the most?」

と記者に問われて、ためらいながらも

「Each, in its own way, was unforgettable. It would be difficult to...」

と言いかけた後の、
「Rome. By all means, Rome」

どこよりも? 何が何でも? どんな意味でも?
繰り返し、繰り返し、何度も観た映画であるのに。何度も訳語を目にしているはずなのに。
どうしても、ふさわしい日本語に置き換えることができません。
By all means。私の中に、これ以外の言葉が見つからず。文才のない自分に呆れながら、同時に、この言葉を口の中で繰りかえすことのできるようになった、今の自分を微かに嬉しくも思い。


晩年の老いた姿を目にしても、その笑顔と姿を確かに美しいと思わずにいられなかった、オードリー・ヘップバーンという女性。
女優として様々な作品に出演し、舞台もこなし、アカデミー賞・トニー賞・エミー賞・グラミー賞を全て獲得した9名の中の一人であるという、実力も美貌も兼ね備えた彼女。
彼女の他のヒット作、「麗しのサブリナ」、「ティファニーで朝食を」、「昼下がりの情事」、「尼僧物語」、「シャレード」、「マイ・フェア・レディ」、……特別な映画ファンではない私でさえ、何本も観ずにはいられなかった魅力の持ち主。

それだけの作品数を抱える彼女ですが、その原点で全て、がこのフィルム1本の中に凝縮されている、と敢えて口にしたくなるほどの。
書いてしまえば、現在では気恥ずかしいほどのラブストーリーにすぎないのかもしれませんが、私にとっては、アン王女のこのセリフのごとく、忘れられない名画の一つ、なのであります。
「I will cherish my visit here in memory as long as I live」


Stanford Theater
221 University Avenue
Palo Alto, CA 94301
[PR]
by senrufan | 2008-07-23 11:10 | Trackback | Comments(4)
トラックバックURL : https://senrufan.exblog.jp/tb/9126003
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by mikamika at 2008-07-24 23:55 x
あぁ、綺麗。
DVDも何度でも好きなときに観られるのはいいけれど、大きなスクリーンで観るのはやっぱり違いますよね。
この夏観た映画は今のところ二本。それもHANCOCKとThe Dark Knightですから、画面が常に黒っぽいっていうか暗くて。。。バットマンは面白かったですよ。暗いけど(しつこい)
Commented by マミィ at 2008-07-25 02:21 x
あぁぁ、「ローマの休日」ですか!私も大好きな映画です。何度観てもヘップバーンの美しさに目を見張ってしまいますよね。

"Rome. All by means, Rome."
のall by meansはフランス語に置き換えるとCertainementだから
「もちろん」ではどうでしょう。強すぎますか?
最初の「ローマ」は少し迷いつぶやくように、それから「もちろん、ローマです。」と確信を持ってきっぱりと・・・だったような記憶が。
あぁ、思い出すだけでぞくぞくっと感動が蘇って来ます。
Commented by Miyuki at 2008-07-25 08:24 x
*みかしゃん
ね、綺麗よねえ、ヘップバーン。そなの、大スクリーンで観ると、ほんとにうっとりしちゃうほど綺麗だったよぉ。
お、バットマン行ったのね! 実は今日スーパーのレジで並んでいる時、前の人がバットマンについて話しててね。今までで最高の出来だったよ、絶対お薦め、でも2時間半は長すぎ、と言ってた(笑) じゃあ長さと暗さを覚悟して観よう、ということだな、わはは。
Commented by Miyuki at 2008-07-25 08:31 x
*マミィさん
はい、もう何度も観てるのに、改めて「こんなに綺麗だったんだ……」とため息ついちゃいました。

「もちろん」、ああ、それも良いですね~! 私もまた考えていたのですが、選ぶ言葉も大事ですが、何よりその言い方が大切だよなあ、と。あのね、最初に「ローマです」と言った時のヘップバーンが、本当に美しかったのです。あの大きな瞳に涙を讃えて、理性では必死に抑えようとしながらも、堪えきれなくなって溢れ出た、心からの一言。その声は微かに震えも帯びて。で、その後、少し落ち着いて、「もちろん、ローマです」と続くのです。その最初の一言があまりに印象的だったので、あの感情にふさわしいだけの日本語がどうしても、こう……本当に、何回観ても感動の一本ですね。


<< 異なる文化をいつもの場所で 抜けていくのは希望じゃなく >>