身体と心で味わう行為 (後編)

生命・きずなの日、世界電気通信記念日、聖マドロンの祝日
間宮林蔵が宗谷海峡を探検(1804年)
屯田兵が初めて札幌に入植(1870年)
米最高裁が公立学校の人種差別を違憲と判決(1954年)


World Baby Foods

味覚について考えている間に、なかなかタイムリーに、新しいベビーフードの記事を目にしましたので、ちょっとご紹介。


うちの市の高校を卒業し、ザンビアやアラスカで研修を積んだという、ユニークな経歴の小児科医、Dr. Susanna Block。
研修中にベビーフードに興味を持った彼女は、「幼児期の味覚発達時期から、異文化の味に触れさせる」ことを目的とした、新しいベビーフードを開発したのです。
「我々は、乳児の味覚を刺激することだけでなく、例えば音楽や色彩のような、他の感覚的経験を与えることも重要だと考えます。
乳幼児の食べ物の好き嫌いは、2歳までに発達することは衆知の事実であり、6ヶ月目から健康的な風味に触れさせて教えていくことは、生涯にわたってのヘルシーな食生活の基となるのです」

加えて、彼女オリジナルな意見として、
「早いうちから異文化に慣れ親しんでいくことは、その後も他国や他文化を前向きに受け入れていくことに繋がる」
という信念があり。
このアイディアを元に彼女が生み出したのが、中近東、アジア、アメリカ南西部、そして南太平洋の味を取り入れたベビーフードでした。
ラインナップの中に、Tokyo Tum Tumというものもあって、中身は枝豆・生姜・玄米バスマティライス・りんごとなっています。


アメリカのベビーフードといえば、りんごか桃のピューレ、にんじんかじゃがいものピューレ、ぐらいのイメージしかなく。日本のベビーフードの充実ぶりに比べて、かなりシンプルな品揃え。
アメリカン味覚は乳児期から、とすんごく納得できるラインナップ。(酷)

将来に渡っての効果はわかりませんが、少なくとも「乳児期からの健全な味覚の発達」が重要と考える人がいて、こういう商品を作ったということは、米国においては大事なステップだと思うのです。

って、現在の米国のベビーフード事情を知らないので、勝手なこと言ってるだけなんですけどね。
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* * * * *

【雑事】

皆様からのありがたいばかりのご意見の数々、一体どうやってまとめようかと頭をひねりまくったところで、元々ないノーミソがいきなり増えるわけもないのでありまして。
苦し紛れに、ただただ羅列しただけ、の拙すぎる形をとった後で、

皆さんのコメントを直接読んでもらえば、それで十分じゃないか。

と気づいたのでありました……(虚ろな目)




*-*-*-*-*-*-*-*-*

「味覚」について思うこと


1. 細胞からは

我々の身体で味覚を担っているのは、舌にある「味蕾」という細胞。
この細胞が多ければ多いほど、味を強く感じとることができるのですが、この細胞、実は子供の方が数倍多いそうなのです。
成長するにつれて味蕾細胞は減少し、中年期になると、なんと子供時代の3分の1まで減ってしまうとか。
更にayuminさんのありがたい追加情報によれば、この味蕾は傷つくと再生しないとのことで。
よって、物理的・身体的にだけ考えると、確かに「子供の味覚は鋭い」「大人になって鈍化」という図式は正しい、ようであります。


2. 変化は

じゃあ、大人は子供より楽しめる味が少ないか?というと、むしろ反対。特に辛味・苦味は、大人になってからこそ楽しめる味で、コーヒーやお酒はその代表格。なんならキムチも加えましょう。
これは味蕾細胞を失って、その分鈍感になったから、と考えるより、時間が経ってプラス(楽しめる味が加わったという点から)方向に変化した、という視点から、「成長」の中に入る要素と思います。ね、さくさん。


3. 鍛錬は

大人になってから味覚を鍛えることはできないか?というと、これも反対。
食に携わる人は勿論、普通の食生活の我々でも、同じものを何度も食べたり飲んだりしていくうちに、段々と違いがわかってきますよね。
ワインやコーヒーなどのテイスティングを職業にしている人も、その修行は大人になってからだったはず。よって、大人になってからでも、自分が意識して努力すれば、味覚を鍛えることは十分に可能と思います。ね、shinaさん、ちゃんさま。


4. 好き嫌いは

では、こういった物理的側面から離れて、「好き嫌い」という点から考えると。
これは個々の細胞の差が生むもの、という面も無視できませんが、同時に「その人の持つ過去体験」が、大きいウェイトを占めています。「学習効果」と言い換えてもいいかもしれません。
家庭で、学校で、外食で、どのような食べ物を食べてきたか? その時々の食事で、どのような思いを抱いたか?
一つ一つは些細なことでも、毎日の積み重ねによる膨大な「経験」が、その人の心身に影響を与えないはずがありません。これはマミィさんから教えていただいた情報でも言われており、すれっぢさんが「記憶の引き出し」という、素晴しい言葉で表現してくださいました。

5. 知識で

「学習効果」という言葉を使ったのは、そういった「経験」から得たものだけでなく、成長するにつれて蓄える「知識」も、また一つの要素であるからです。
頭で食べる、というのは、決して良い食べ方とは思いませんが、例えば栄養面のことやブランド、値段、果ては誰からもらったか、などといったことまで、全てがその食べ物を食べる時に反映される。
これは我々が味わうという行為を行う時、舌という機能に加えて、脳という器官も切り離せないものであるからです。


6. 脳まで

この「知識」「学習効果」の厚みこそ、細胞数では劣る大人が、子供の何倍も持っているものですね。
子供の頃は邪魔であったかもしれない調味料の類いも、これを加えるとこういう味が期待できる、という経験と、調味料が発達した文化に対する知識によって、大人の方が楽しめるもの。嗜好品の類いも同様に。
体験した事実を、脳内でカテゴリー化し、その後の経験に役立てる、ということを、我々は食事面でも繰り返しているわけです。
これはプラス経験のみならず、マイナス経験も勿論含まれるものなので、改めて「食」が我々の中に占める割合の大きさを実感します。そうですよね、まきりん♪さん。


7. 姿勢も

更に、「食べ方」の問題もあります。
子供の頃は、本能で食べる量を判断できていたものが、食経験が増えていくにつれて、偏りが生まれたり、食べ過ぎて肥満になったり、という問題が発生してくる。
マナーも然り、料理人や食材に対する感情も然り、こういった点まで含めた「食べ方」は、幼いうちは無理なこと。
これを理性でコントロールできるようになる為には、成長して大人になっていく過程と時間が絶対に必要なのですね。そしてそれには終わりがないのですね……(未だ成長途中)


8. 頭では

しかし、こういった脳で補う大人の食べ方は、同時にそれらの知識や見栄が拡大されて、純粋に味を楽しめなくなる危険性が常にあるわけで。
そして素材そのものの味より、調味料の味に舌が慣れて、素材から離れていく傾向もあり。
これは野菜や肉、魚といった、まずは食材ありきの本来の「食事」という点から見れば、確実に「鈍化」でありましょう。
素材の味という基本に立ち返ることは、むしろ大人になってからの方が何倍も難しいことであり、その流れを自覚しておられるChicoさんには、さすがと申し上げたいです。


9. 全身も

身体的、という点から見た時、もう一つ付け加えるべきは、「新陳代謝の変化」です。
脳や舌の好みから離れて、その時の自分の身体が必要・もしくは不必要と判断するもの。これもまた、選ぶ「食」に影響を及ぼす要素です。
昔は肉魔王だったのに、今では野菜が好きで仕方がない。こんな変化を感じる大人の方は、決して少なくありません。特に私ぐらいの年齢になると(俯く)
頭では欲しがっても、実際に食べると胸焼けがする。以前は嫌いだった野菜類が、今はどうしても食べたい。
これは舌以上に、身体が発している大事なサインです。
そしてこの「身体の声を聞く」ことこそ、幼児期には可能であったのに、成長につれて困難になることの一つであると思うのです。


10. もっと細胞を

「新陳代謝の変化」は、「体質の変化」の一部です。
以前にも書きましたが、血液は10日で、細胞は3ヶ月で、身体全体は7年で入れ替わります。
細胞が失われていくと同時に、新しい細胞が作られる。その細胞の元となるのは、私達が日頃食べているものに他なりません。
「You're what you eat」。味覚が鈍化するか、成長させられるか、は、やはり私達自身が選ぶべきことなのだと強く思います。


11. その意味は

私達にとって、「味覚」を持つことの意味はなんでしょう。
プロの方であれば、職業上絶対必要な感覚でありますが、私達一般の人間にとって、健全に機能する味覚を持つことは、すなわち日々の食事を愉しむことに繋がります。
仕事で疲れて帰った時に、ほっと味わうおうちごはん。気の置けない友人達と、わいわい騒いで味わうごはん。
「食」のシーンは無数にありますが、その場面をどこまで楽しめるか、ということにおいて、味覚がいかに重要か。
またそういう体験が、脳内でカテゴリー化され、味覚の発達、もしくは鈍化に繋がっていくわけですから、「健全な味覚」を持つことは、とても大きな意味がある、と思います。


12. 身の丈で

さて、以下は全くの個人的意見として、最後のまとめに移ります。
私にとって、この場合の「健全な」という意味は、「等身大であること」も含みます。
食に関わる職業でない限り、ずば抜けて鋭敏な味覚は必要ない。あればありがたい話だけれど、それが故に一々食事にケチをつけるような味覚であれば、かえって妨げにしかなりません。
ハレでもケでも、日常の食事を味わって楽しめる。そのレベルがしっかり維持できれば良い。
では、その為にはどうしていくつもりか、というと、

 ・少食であること(身体が本当に美味しいと感じる範囲内で十分、ということ)
 
 ・良く噛んで、ゆっくり時間をかけて食べること
 
 ・心ゆくまで味わう為に、安心できる調味料と食材を選ぶこと

 ・料理の材料となったものへ、そして作った人への感謝を忘れないこと

どれも私にとって、基本の”き”。自分曲線を上向きにする為に、また、し続けていく為に、どれも欠かせないことばかり。
身体の中の、たった一つの器官である舌でもって、私達が受けとめられるものは、想像以上に膨大な規模のものなのです。
*-*-*-*-*-*-*-*-*
最後になりますが、ご協力くださった皆様、本当にありがとうございました!
改めて、心からの感謝を申し上げる次第であります。両手いっぱいの愛を皆様に。(ほら、そこ逃げないっ!)

ふと思いついた些細なことだったのですが、貴重で鋭いご意見を、身の程以上にいただいて、とてもとても勉強になりました。
昨日も今日も明日も明後日も、皆様と一緒に食べて飲んで、楽しく「食」ライフを過ごしていきたいと願っております。
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by senrufan | 2008-05-17 10:41 | Trackback | Comments(12)
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Commented by マミィ at 2008-05-19 15:14 x
私のエンジェル、Miyukiさん、こちらこそどうもありがとうございました。Miyukiさんの楽しく勉強になるブログのおかげで、ますます「美味しく味わう」ことへの意欲もりもりの朝であります。
Commented by peartree22 at 2008-05-19 15:59
わーー、Miyukiさんの緻密な思考回路を垣間見た気がします。
本当に読むだけで味覚についてすごく知識が増えたような(後は私の脳がそれをいつまで止めておけるかなのですが・・・)。
食べることは命を頂くこと。飽食の今だからこそ、もっと大事にしていかなくちゃと改めて思いました。
ベビーフードの記事も興味深かったです。以前会津に住んでいた時にいろんなお国の方に伺いましたが、フランス人は「牛の脳みそ」食べるとか(知人はそれがダメでずーっと人参ジュースとか人参のすりおろしばかり食べていたとか)、韓国の知人は2歳くらいからやや優しい辛さのキムチを食べさせるとか、etc。このベビーフードの考え方はカリフォルニアならではかもしれませんね。小さい頃からいろんな文化や国の味を知ることって面白そう!
日本のベビーフードはすごく色々な種類がありますが、どれもけっこう味が濃い目でびっくりしたことがあり。娘もまったく受け付けなかったのです。それが今では「●ップヌー●●食べてみたーい」ですから・・・(涙)。でもまぁ、Miyukiさんの励ましを受けて、今は娘が食べることが好き!と言う事を喜びとして、ながーーい目で見守れ・・る、かな?(笑)。
Commented by frogfreak at 2008-05-20 03:35
食と味覚。このところのMIYUKIさんの記事を読んでて新米ママとしては色々考えさせれれました。タイムリーにも離乳食を始めたばかり。この子の食に関する概念は私によるものが大きいんだと思うと責任を感じますねっ。食べることを楽しめる豊かな人生を送って欲しいです。
ベビーフードの記事もなるほど!です。
うちは洋食が好きな家族で幼い頃から色々な食材に触れる機会がありました。そんな環境を与えてくれた親に感謝したいですねーっ。
Commented by すれっぢ at 2008-05-20 06:23 x
これは確か中島らもさんの本で読んだのですが、どこかのお坊さんが
とっても厳しく菜食してるそうで、魚・肉を調理した包丁やまな板で調理
された野菜を食べただけでも分かって、生臭くで嫌だとか。そこまで味覚が敏感(過敏)になると、ちょっと悲しいことなんではないかな~とのらも
さんの意見でした。あれを読んだ時、ハタと「過ぎたるは、及ばざるが
ごとし」を思った次第です。何事もほどほどがやっぱりいいな~と。
Commented by ayumin_moo at 2008-05-20 12:51
あまりに深く奥行きのある内容で、一つ一つ何度も読み返してしまいました。何からコメントすればいいやら。。。
とにかく、Miyukiさんに感謝です!私の表面をさらったような話題をここまで繰り広げていただき、しかも、私の中のモヤモヤとしたものを見事なまでに言葉にあらわしてくださいました。深くうなずいてばかりで首が痛くなりそうなほどです。(笑)
そして、やはり一番大切なのは健全な味覚をもって、食を楽しむこと。幸いなことに、自分は食べたいと思うものを手に入れられる環境にある、そのことに感謝しながら、食を大切に楽しんでいきたいと思います。
Commented by Miyuki at 2008-05-20 12:52 x
*マミィさん
きゃーっ、マミィさんがエンジェルって言ってくれたーっ! もっと言って、もっと言って(はあはあ)
お礼は私こそ百万回。これからも美味しいモン、いっぱい食べていきましょうね~! だからがんばれ、パリの虎屋!
Commented by Miyuki at 2008-05-20 12:59 x
*ちゃんさま
食べることは命を……ああ、ほんとにそれに尽きますね~! ちゃんさまの一言には、いつもぐっときてばかりの私です。
牛の脳みそ!? 2歳からキムチ!? うわあ、それは面白すぎて、今度はそっちの事例を集めたくなってきましたよ~。確かに、ここカリフォルニアならでは、の発想かもしれませんね。ありがたい場所です、つくづく。
日本のベビーフード、うん、濃いのもありましたね~。私も結構薄めて使ってたなあ、そういえば。子供の味覚、ほんとに年々変わりますので、あまり深刻にとらえなくてもダイジョウブかも。うちの娘も、すっごく変わりましたもん。あっちに傾いて、こっちに傾いて、そして数年後に中庸に落ち着いてくれることを願って、ひょいひょいっと傾きを軽く直すケア、みたいなイメージでいいのではないかと思うです♪
Commented by Miyuki at 2008-05-20 13:04 x
*frogfreakさん
そう、このベビーフードの記事は、貴女に捧げます!なんつって(笑)
冷静に観察すると、遺伝というか、本来持っている味覚も確かにあって、ここはそれなりにしか手を出せないのですが、外的要因でほぼ決まる部分、これは親の責任は大きいなあ、と。それは、味の好みについては勿論ですが、食に対する姿勢、これがすっごく大きいように思います。そして私も、親になってから、自分の親に感謝することばかりです♪
いつかお嬢様と楽しく外食できる日を目指して、ゆっくりお嬢様の成長を楽しんで下さいね!
Commented by Miyuki at 2008-05-20 13:07 x
*すれっぢさん
ほどほど、中庸、等身大。どれもしみじみ、大事なことだなあと思いますね~。
そのお坊様の話、良くわかります。徹底して数ヶ月その手の食品をとらなければ、ほんとに身体はそれに反応するように変わるんですよね。でも問題は、生臭いから、とその野菜を食べないか、それともそれを承知で食べるか、にもあると思うのです。少なくとも私はそれを食べてはいけない戒律や宗教を持たないこと、ありがたく思います。
Commented by Miyuki at 2008-05-20 13:10 x
*ayuminさん
こちらこそ、貴重な話題を提供してくださって、本当にありがたく思っております。今度会ったら、むぎゅーっ!させて下さい。感謝の抱擁。せめて、ayuminさんの名を汚さない出来だったら良いのですが……(不安)
ayuminさんの食に対する姿勢には、私こそ何度も頷いてばかりです。これからも美味しいもの、いっぱい食べていきましょうね~! びば、カリフォルニアライフ♪
Commented by まきりん♪ at 2008-05-21 14:05 x
おお、素晴らしい味覚に関しての個人アンケートのまとめが!

これをじっくり読んで、食についての洞察を深め、といきたいところですが、お菓子作りが楽しくってねえ。まあ、sweet teethのせいということにしておきましょう(笑)
Commented by Miyuki at 2008-05-22 12:15 x
*まきりんさん
まきさんからいただいたご意見、少しは反映できてるでしょうか?(上目遣い) 嬉しかったですー、ありがとうございましたー!

なんの、手作り=食との関わりを深めること、でございますよ。ということで、いちごタルト~~。まきさんのタルト~~(夢に見そうだ)


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