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人情を由来として

寿司屋では、通っぽい言葉を使うお客さんを嫌がる、という話は良く聞いていましたが。こういう理由もあるとはとんと存じ上げませんでした。上前淳一郎氏の「読むクスリ」から。

あがり(お茶)、むらさき(醤油)。両方、花柳界から来た言葉。女郎屋にあがるとお茶が出たことからと、昔の醤油はむらさきがかった色だったから、ということ。

寿司だねをネタというのは、芸能界でやるような逆さ言葉。

ゲソ(いかの足)。脱いだ履物の意味の下足が縮まった。

ギョク(卵)。玉子、と書いた下半分の省略形。

シャリ(飯)。米粒が仏陀の遺骨を意味する舎利に似ているから。

ガリ(しょうが)。噛む時の音をそのままとったもので、ガリガリにやせるようで響きが悪い。

総じて、食べ物に使うには無神経、もしくは縁起が悪いということらしいです。ふむふむ、てっきり通ぶるのが嫌なのかと。
良いものは残して、新しい良いものも作って。そんな感じでひとつ。

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【読書】
人情を由来として_b0059565_12514652.jpg畠中恵著「ぬしさまへ」を読む。「しゃばけ」に続く2作目は短編集。



今日も今日とて変わりなく病気の(…)若だんな、一太郎。1作目で、常に妖怪にかしずかれる彼の生活ぶりと、見事な推理力を披露したが、2作目では6編の短編を通して、更なる鋭さと優しさ、妖怪たちの意外な面などがうかがえて、どれも非常に楽しい出来となっている。
腹違いの兄・松之助のつらい境遇や、苦境に立たされた幼馴染、お付の仁吉の恋噺。どれもほんわりとしたムードでありながら、じわりと沁みる切なさで、思わず涙を誘われる。

江戸を舞台にしているが、時代劇のような荒々しさはない。妖怪が数多出てくるのに、ホラーの不気味さは皆無。ミステリーでもあり、人情物でもあり。
世に沢山ある時代劇というジャンルの中で、見事に独自路線を築いた作品と感服する。いや、それともミステリージャンルに入るのか?

傍から見れば、体こそ弱いものの、他には何一つ不自由なく映る一太郎。しかし大店の跡継ぎとして、これで果たしてつとまるのかという焦りは常にあり、それが彼がただの坊ちゃんになるのを食い止める。人の機微を読む上手さと、逆にそういう育ちだからこそ持ちえたのかもしれぬ懐の深さを併せ持つ、彼の心の強さは人一倍だ。
それでもまだ足りないと、悩み俯く彼の姿が垣間見られる。
(私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように)
こんな思いも、外にこぼせば皆を心配させると、心の中で噛み締める。

笑って泣いて驚いて。時代物の魅力は多々あるが、こんなに柔らかく全てを味わえる小説はなかなかない。柴田ゆう氏の挿絵が、また良い味を加えている。
続刊も数冊出ていてぜひ読みたいのだが、まだ文庫化されていないので手を出せない(涙)(ああ日本の図書館が恋しい)
by senrufan | 2006-11-20 12:50


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