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綴る思いは布の上

朝晩はだいぶ冷え込むようになったものの、なぜかまた日中は夏日が続く。
でも着実に夏とは違うと思うのは、

素手で洗い物をしていて、肌がひりひりしたり、かゆくなったりするようになったこと。
お嬢の頬がかさかさになって、今までのモイスチャーライザーでは効かなくなってきたこと。

温度計より、肌で感じる季節の変化。

* * * * *

【個人的事情】
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キルトのクラスを開いている友達がいる。
クラスのWebサイトなどで、彼女の作品の写真を見ては、感嘆のため息をついていたけれど。今日実際に見せてもらった本物は、写真よりずっと鮮やかでどこか控え目で、しっかりとした質感のあるものばかり。
自分には到底できないと諦めたキルトだけど、好きだという気持ちは変わらないものだなあと、緩む頬で写真を撮らせてもらった。何枚撮っても、本物には叶わないと知りながら。




いつ頃からだったかは覚えてないが、気がついたら母がキルトをやっていた。
私が小さい頃は、洋服はほとんど母の手製。刺繍もこなし、編物も上手、人形の服などもささっとその場で縫い上げるような人だったので、キルトを始めた時も、その延長にあるものとして自然に納得した。

アメリカに来て、何かクラフトのクラスにでも参加して英語を学ぼうか、と思った時、浮かんだのがキルトだけ。お店を探して、たどたどしい英語で初心者クラスに申し込もうとしたら、残念ながら定員いっぱい。駄目元でウェイティングリストに名を入れておいた。
しばらく経ってから、ある朝鳴った電話。
「今からクラスが始まるんだけど、キャンセルが出たので参加できます。どうしますか?」
やりかけの家事を放り出して、裁縫箱を引っ掴み、取るものとりあえずクラスに駆けつけた。10人ほどのクラスはほとんどが年輩の方で、先生が一番若く見えた。

計7回のクラスで9パターンを学び、それらを繋ぎ合せて中綿を入れ、裏布をつけ、キルティングも施して、1枚の膝掛けを仕上げるという内容。初日は各自でお店の中にある布を数種類選んで、以降はその布を使って、自分なりのパターンを作り上げなくてはいけなかったのだけど。
その最初の段階ですでに躓き。選んだ布の色が良くなかったので、4パターン目にはもう組み合わせが限界にきて、どうしてもきれいな絵にならない。ちょうど母が日本から来てくれたので、泣きついて一緒に店に行ってもらい、私でも何とかなりそうな無難な組み合わせの布を選んでもらう羽目になったのだ。

それに対して先生は、その日に習うパターンを、数種類の布の組み合わせでサンプルを作ってきてくれるのだけど、その1枚1枚の華やかなこと。奇抜な色同士でも、見事に額縁に収まる仕上がりとなっていて。
その時に、キルトとは単なる手芸の枠を超えて、芸術なのだと実感した。縫製のテクニックも半分近くを占めるのかもしれないが、まず何よりも絵を創るそのセンスがどれほど大事かということを、身をもって理解した。
膝掛けは何とか仕上げたものの、以来キルトと名のつくものには手を出していない。あの時に買ったフープなどの道具類だけ、ひっそりとしまってある。

しかしそんな思いを味わっていながら、相変わらずキルトを見るたびに胸がほんわりと温かくなることは変わらない。布や糸、毛糸といった媒体がそう思わせるのかもしれないが。
あのクラスで出会った人達も皆、英語のできない私に優しくて。そんな思い出が、好意を更に後押しする。

天窓の下、リビングに置かれた机と数脚の椅子。彼女のクラスもきっと、何種類もの布と針と糸と、動かす手。多分沢山のおしゃべりも。そんな時間を過ごすんだろう。
料理が上手くて、お菓子もパンも上手で、キルトもフェルティングもこなす彼女。周囲でも評判の美人さんは、人柄通りの優しい笑顔で生徒さんを迎えているんだろう。

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Atelier Usagi's Quilt

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母はこちらに来るたび、嬉しそうにキルトの店に行く。そうして、日本にはない鮮やかな色の布を探して買っていく。
付き合う私はそんな母を見ながら、その遺伝子をもらえなかったことが悔しいやら情けないやら、複雑な思いでたたずむのだ。

ちなみに母は料理もお菓子作りも、娘の欲目抜きで非常に上手く、家事全般の腕が良い。頭もいいというか、実生活能力が高いんだな。
キルトの遺伝子がのる素地には、そんな要素が必須だとすれば、私にないのは当然さ。(雑然とした部屋を眺めて)(あからさまに開き直り)

我が家にも母の手製のキルトが幾つかある。
特に私のベッドにかかるカバーは、私の小さい頃に母が作った服の端布を継ぎ合わせて出来ている。数年前に、母が日本からトランクに詰めて持ってきてくれた宝物だ。
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by senrufan | 2006-10-19 10:40


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