「打つ前に私は失敗を考えない。
片鱗でも考えた場合、脳裏に失敗の設計図が定着する。
出来上がる建物は、設計図通り」
----- ミッキー・ライト
(アメリカ人、プロゴルファー、1935年2月14日生まれ)
おいしい店との付き合い方。 : 食堂のメニュー、レストランのメニュー。
レストランに行く時、特に初めてのお店に行く時、メニューを見るのが、とても楽しみで。
どんな内容なんだろう、と、わくわくしてしまうんですね。
加えて、ウェイトパーソンが説明してくれる、その日のスペシャルなどがあれば、また嬉し。
メニューは勿論、サーブしてくれる人との相性も、そのサービスの内容も。
そのお店がお気に入りになるかどうかという点で、とても大切な要素であることは、私ごときが申し上げるまでもありませぬ。
先日、
eatSFOさんのレストラン訪問記を拝読して、そんなごく当たり前のことを、もう一度しみじみ思ったりしたのでございました。
* * * * *
【レストラン】
ずっと前から憧れていたレストラン、というものがあったりする。
ベジィになってからというもの、憧れるレストランも、随分と色を変えたけど。
そこは、それより何年も前から、だったので、ベジィとは全く方向の違える場所なれど、憧れる気持ちだけは続いてた。
メニューがちょっと特別なことと、Webサイトがない為、どんなお店かイマイチ把握しにくいことがあって、なかなか実現できずにいたけれど。
同時に、それだけ憧れていた店であるが故に、そのまま憧れにとどめておいた方が、と思わされるような出来事も幾つかあったりして。
しかし、友人夫妻2組とご一緒できることになったおかげで、とうとう訪問叶ったその場所は。
サンフランシスコにある、
スフレメニュー専門のレストラン、であったのだ。
うちの名前で予約しておいたので、現地には20分以上前に到着したんだが。
この日に限って、駐車の神様が降りてこられず、駐車スペースを全然見つけられなくて。
大汗かいて到着した頃には、すでに予約時間を15分ほど過ぎていて。
お待たせしてしまった皆様には、本当に申し訳なく、平謝り。幸先に暗雲が見えたのだ……
ぜーぜー言いながら入った店内は、想像よりずっと、こじんまり。
我々の6人掛けテーブルが、どんと中央にあって、その周りは2人掛けか4人掛けのテーブルが、少数ずつあるだけの、ごくごくアットホームな空間。
メニューを見て、ようやくこちらの内容がわかったよ。
スープにサラダ、前菜があって、それからEntrée Souffléが並んでる。
メインのスフレは、2人用サイズとなっていて、Leekやカリフラワー、ほうれん草など、いろんな種類が用意されている。
お値段は大体$33ぐらいから、一番高いロブスター(時期による)は$60。
どれにするべきか、大いに迷う。というか、皆さん謙虚で主張されないので、なかなか決まらないのだな。(わはは)
とりあえず、ラインナップから2つを選択。
Dessert Souffléはあとで、と思ったら、ウェイトパーソンのおじさまが、注文を受けてから2時間以上かかるので、今注文しておかないと、とおっしゃって。
これまた、なかなか決まらないタイムを経て、なんとか同時に注文したよ。
さて、メインスフレが来るであろうまでの2時間は、まずはワインで乾杯から。
ワインに詳しいご夫妻が、おじさまと相談した上で選んでくださったのが、ボルドーの白ワイン。ワタクシ、ボルドーに白があることすら知らなかったド素人でございます。
そんな「豚に真珠」なヤツでも飲んでみたらば、あら、甘めで美味しい。
なんというか、コクと適度な重さがあるのだけど、後味がすっきりしてて、これは好きだなあ。
このワインを選ばれた理由は、メインスフレで頼んだブリーチーズに良く合うから、ということだったのだけど。
この甘さにあとで助けられることになろうとは、乾杯の時は予想していなかったのだ……
スープを2種類、皆で分け合って。
こちらは本日のスープで、
Cauliflower Purée。
塩味はしっかり目だったけど、舌触りが滑らかで美味。
こちらは、スフレと並んで看板であるらしい、
Onion Soup。
日本で言うところのオニオングラタンスープで、上にはチーズが贅沢に。
悪くはないけど、玉ねぎ自体の甘味と旨味が足りず、イマイチな感想。
サラダも同じく、2種類。
カメラマンの腕のせいで(はーい、私でーす)、ボケ写真だけど、こちらは
Spinach with Goat Cheese。
クセのあるチーズが大好きな私は、山羊チーズも勿論好物なのだけど、これはゴートっぽい味があまりしなかったの。
私が自分のお皿に取り分けた分に、ゴートチーズがあまり入ってなかったのか、そういう種類なのか、それとも削って軽くしてあったからなのか。
もう一つは、
Belgian Endives with Roquefort。
エンダイブにロックフォールチーズをのせて、塩・胡椒とドレッシングを効かせたもの。
1枚1枚に沢山のせてくれているおかげで、ロックフォールの味がしっかりと。
この盛り付け方、いつか真似してみたいもの。
さて、メインのスフレ2種類が、同時に運ばれて来ましたよ。
Brie & Broccoli、そして、
Prosciutto & Mushroom。
これが噂の、これが長年知りたかった当の、みたいな感慨にふけったり。(3秒間)
かなり大柄なおじさまだったので、皆に取り分けてくれる手も大きくて、スフレが可愛らしく見えるよね。
スフレが入った容器は、うーん、直径20cmぐらい?
でも、ふわふわスフレにおじさまがスプーンを入れると、しゅわん、としぼむので、実際のかさはそれほどでもない。
プロシュートの方は、上にどっさり乗せられたプロシュートも、一緒にサーブしてくれたよ。
念願のスフレ、どきどきしながら口に運んでみた。
あまりのしょっぱさに、別な意味でのショーゲキを受けました。
待て待て、ちょっと待て、落ち着け自分。
と言い聞かせながら、二口・三口と食べ進もう……とするんだけど、いやはや、これは相当だ。
私だけかと思いきや、向かいのお嬢の顔もこわばってる。
頑張って食べるうちにわかってきたのは、これはプロシュートが元々塩辛いのに、生地にもきちんと味をつけてるせいなのかと。
プロシュートが入ってない、マシュルームとスフレだけの部分は、味が濃いなりになかなかなのに、何とも勿体無い。
おかげで、ブリーチーズとブロッコリーの方まで、かなりの塩辛さに感じられ。
や、勿論、プロシュートよりは、ずっと良かったんだけどね。
ブリーに合うから、と薦めてもらったワイン、別な意味で良く合ってたよ。甘さで、塩味緩和だよ。
しかし、生地はさすがだなあ。
具が入ってるから、デザートスフレよりは重いのだけど、ふんわり空気感が嬉しい仕上がり。
バターの香りも豊かで、フレンチ感いっぱいで、これは立派な主菜だね。
主菜が終わり、残るはデザートのみ、になったところで、ぽっかりと空いた数十分。
話がはずむカップルやグループなら、これもまた楽しい待ち時間であろ。
大人数だったおかげか、キャンドル付で運ばれて来たデザートは、
White Chocolateのスフレだよ。
ホワイトチョコのペレットが沢山のっていて、一面のパウダーシュガーが美しく。
スプーンを入れた時のしぼみ方は、メインのスフレの倍近く。
そらそうだ、あちらはもっと具が入ってるもんね。
その分、口当たりの柔らかさと口どけの良さも素晴らしく、airyという言葉がぴったり。
メインから推して覚悟(?)していた通り、しっかりとした甘さの上、ペレットが加わって、全体として、かなり甘いデザート。
強めのブラックコーヒーで、甘さを抑えながらいただいた。
長くかかるとは聞いてはいたけれど、トータルで4時間ぐらいはかかったかな。
客数もそれほど多くないのに、どうしてここまで焼くのに時間がかかるのかなー、と思っていたら、厨房をのぞいた時にわかったよ。
このお店、奥がキッチンになっていて、化粧室に行くには、キッチンを通っていかなければならないので、その時に垣間見えた光景は。
ええと、ここは一般家庭のお台所?と思うぐらいにこじんまりしてて、作っているのもシェフが一人と、あと2人ほど。
この広さなら、オーブンが一台ぐらいかもしれないし、それで一つ一つ焼いていくのだとしたら、時間がかかるはずだよなあ。
その、当のシェフのJacqueline Margulisさんは、笑顔が優しいおばあちゃま。
通り過ぎる時に、恐る恐る声をかけてみたら、威厳のあるお声で答えてくれて。
大きいスタンドミキサーの前に立つジャクリーンさんの横には、何十個あるのかわからないほどの、
山盛りの卵の殻が入ったボウルがありました。
そして、コースで数時間かかるということは、それだけお客の回転が遅くなるわけで。
我々は5時半スタートの予約だったのだけど、終わったのが9時半過ぎ。
ということは、せっかくテーブルが空いたのに、これから来るお客さんは、コースで頼むのは難しいであろ。
閉店時間が11時と遅めなのは、そういう理由もあるんだろう。
だから、気軽にお客様を入れられない、というのは良くわかったのだけど。
有名店だけあって、頻繁にお客さんがいらっしゃったし、タイミングが良い時は、予約なしでも、にこやかに招き入れていたのだけど。
ただ、残念ながら断る場合。
その断り方が、けんもほろろと言いたくなるようなものであったり、人によって対応に差が見えてしまったりした場合は、たとえ自分に対してでなくても、しかめっ面にならずにはいられないのだな。
そうやって断っても問題ないぐらいに、大勢の人が来るお店ではあるのだろうけれど。
長い間抱いていた憧れが、スプーンを入れたスフレのようにしぼんでしまうのは、決して嬉しいことではなかったよ。
訪問前から微かに感じていた、不安めいたもの。
憧れは憧れのままで置いておくのが良い、と思う場合もあるけれど。
それでもやっぱり、こうやって実際に行けて良かった、と思うんだ。
付き合ってくださったご夫妻達に、感謝の気持ちでいっぱいだ。
レストラン情報に疎い、というか、偏った分野しか見ない私には、このエリアでの”憧れ”のお店は、今は特に思いつかないけれど。
大好きな友達や家族と、思いっきり楽しくおしゃべりできて、美味しいご飯がいただける場所。
そんなお店に出会える時を歓迎できるよう、いつでも両手を広げているんだよ。
Cafe Jacqueline
1454 Grant Avenue
San Francisco, CA 94133