海も空も、国境も越えて

【アクティビティ】
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「空をこえて、ラララ星の彼方、ゆくぞアトム、ジェットのかぎり……」
始めは自分の生まれた年より前に、TVで流れたはずの歌。それでもそらで歌えます。
今では彼自身の生年月日を追い越した今年、母国ではない国で彼に再会しました。




サンフランシスコにある、Asian Art Museum。ここで開催されている、「Tezuka:The Marvel of Manga」展に行ってきました。
マンガの神様と称される手塚治虫氏の、米国での初の展示会です。

アメリカだけでなく、海外での日本のマンガ・アニメ人気は、年々高まりこそすれ、いっこうに収まる気配は見えません。以前は日本文化への興味が動機となって日本語を学び始める人が多かったのですが、ここ数年の動機のトップは、ダントツで「アニメ」です。もっとも、そういう学生は脱落していく率も高いのですが(……)

最初にこの展示のことを聞いた時、果たして彼らのような現在のマンガファンに、しかも手塚氏の業績についての知識も感傷もない彼らに、一体どこまで受け入れられるのか? と、甚だ疑問でした。実際、手塚氏の絵柄は、彼らの好むものとはかなり色合いを違えたものでありますので。
英訳された日本のコミックもアニメも着実に増えているようですが、随分と昔に放映された「Astro Boy(鉄腕アトム)」についての話は聞こえてこない……といっても、私自身がそういう米国アニメファンと話す機会がなくなってから大分たちますので、現時点での評価は不明です。

なので、この美術館ではどういった切り口での展示になるか、期待しながら行ってみたわけです。

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3階建の建物の中、1階部分が特別展示。今期間の大きな特別展示は2つあり、一つは手塚展、もう一つが浮世絵版画家の月岡(大蘇)芳年展です。

b0059565_11542594.jpgまずは芳年展から。
この展示を見るまで彼の名も知らなかったのですが(恥)、説明によると浮世絵終期の江戸末期から明治にかけて、歴史画・風俗画のみならず、新聞も手がけ、「最後の浮世絵師」と呼ばれた画家だそうです。

小ルームの壁をぐるっと一周する形で、作品発表年順に展示されており、彼の筆の変化・時代の流れが同時に把握できる内容。当初は歌舞伎絵や物語絵中心で、それも残酷なシーンを主に描いていたことで、「血まみれ芳年」などという呼び名もついたよう。

幕末の混乱や上野戦争といった時事絵を経て、明治以降は新聞の挿絵の仕事が中心になっています。この頃になると、随分と筆のタッチや字が変わってきていることに気づかされます。最初の頃の伸びやかで大胆な筆使いから、より細かくシャープな、横に添えられた字まで一体となって綺麗にまとまった印象です。

彼を劇画の先駆とする根拠は、工夫された構図・動きや表情のある瞬間の切り取り方にあるようです。これは、彼が新聞の挿絵を手がけることで磨いたテクニックなのかもしれません。
それがまた、海外での方が彼の評価が高い理由、ともされています。

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そして次にいよいよ、別室に設けられた手塚展に移ります。

b0059565_11544796.jpg展示室の前の壁から始まり、部屋の内部は選ばれた11の作品について、説明パネル+数枚の原画の展示、という形で、やはりぐるっと一周して見て回るようになっています。
加えて常に背後に流れ続ける、手塚氏のアニメ作品のテーマソング。中でも「リボンの騎士」「海のトリトン」「ジェッターマルス」は、今でも十分歌える自分に驚きつつ、鑑賞して回りました。

巨匠の原画の美しさは、十分観に来た甲斐のあるもので。
初期の頃は原稿サイズ自体が小さかったので、その分細かく描きこまれているのですが、修正の後もなく、トーンがなかった頃の効果用の水色インクも、一定の濃度で塗られていて。

手塚氏といえば、原稿の作成を細分化してアシスタントに任せるという、プロフェッショナル手法を始めた人とも言われていますが、人物のペン入れは全て氏の手によるものだったそう。更に円やある程度の長さのラインは、定規なしで一発で描けたという話もあるほど。
元々バランス感覚の優れた人であったと推測するに十分な、説得力に溢れた見事さです。

今展示の説明によれば、彼は医学博士であり、テクノロジーの知識にも優れていたという相当な教養人でありながら、ディズニーのアニメを愛し、平和・人道主義をマンガを通じて訴える、大層深遠な人物、となっています。
元々北斎が始めた「戯画」、そして浮世絵というジャンルを、幾つかのコマにわけてストーリーを付与することで、それまで新聞の片隅の一コマでしかなかったマンガという存在を、世間に広めた先駆的芸術家であった、との評価を与えていました。


ここでようやく、この展示のテーマを見つけるに至ります。
浮世絵の末期に人気を博した芳年を「マンガの先駆」と位置づけ、それを手塚が「浮世絵からコマ割に移行させてマンガの基礎を築いた」存在であると訴える。
楽しみにしていた”米国での解釈”。浮世絵という存在を、日本より早くに高く評価していた米国だからこその切り口のようで、しみじみと興味深く思いました。


私達が行った時間が早かったせいか、それほど多くの人がいなかったのですが、ちらっと小耳にはさんだ周りの反応はというと。

ティーンの女の子と弟(おそらく)が、
気持ち悪い絵ばっかり! つまんなーい」
と言ってたのが耳に入り、予想はしていたもののニガワライ。

かと思うと、ゆっくりと見て回っていた、私と同年代かと思われるカップルが、
「こんな、芸術のレベルに到達したマンガもあるのね」
と話しているのも聞くことができて、思わず小さくガッツポーズ。

尚、芳年展と手塚展を回る館内無料ツアーもあり、そのグループのそばを通った時、係員のこんなセリフも。
「これらの作品の中では、黒髪は日本人、白い髪は外国人、と描きわけられています。たとえ全員、丸い大きな目をしていても
こうやって歪められて伝わる文化もあり(くらっ)(眩暈)

欧米人に、マンガが単なる子供向けの娯楽ではないということを知ってほしい。
日本人にとって、どうしてマンガがこれほど重要な存在になったのか、そのルーツを探りたい。
美術館の今回の展示の目的が、果たしてどれだけかなえられたものか、どこかで知ることができれば嬉しいのですが。


蛇足ながら、展示用に選ばれた作品は、以下の通りです。

原画が展示されているもの :
「鉄腕アトム」「メトロポリス」「バンパイヤ」「ブラックジャック」「罪と罰」「きりひと讃歌」「ルードウィヒ・B」「ボンバ!」「アポロの歌」「MW(ムウ)」「人間昆虫記」「火の鳥」「ブッダ」
原画はないが、パネル等で紹介されているもの :
「どろろ」「ジャングル大帝」「ふしぎなメルモ」「ユフラテの樹」

何かをのがしている気がしてなりません、うーんうーん(汗)

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さらに1階に設けられていたのは、「Manga Lounge」なる部屋。
アニメグッズ、お絵かきコーナー、日本のマンガの英訳版コミックが沢山あって、くつろいで過ごせるようになってます。ジブリのショートフィルムもあり。
お嬢をここから引き剥がすのに、ちと努力しなければなりませんでした。ふう、やれやれ。

ギフトショップでは、結構な数のアトムグッズや本などが販売されています。
但し”Made in Japan”も多いようなので、その点は要チェックで。


Asian Art Museum
200 Larkin Street
San Francisco, CA 94102
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by senrufan | 2007-08-22 11:32 | Trackback | Comments(12)
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Commented by まきりん♪ at 2007-08-24 13:46 x
子どもの頃「リボンの騎士」が大好きでした。それが手塚作品であると知ったのは後年だったけど。

アメリカ人がどれだけ、そしてどんな風に彼の描いた世界を理解するのか、興味を持ちました。十代の子たちには受けない作風というのも頷けますね。
Commented by マミィ at 2007-08-24 15:02 x
手塚治を「浮世絵からコマ割に移行させてマンガの基礎を築いた存在である」との解釈、面白いですねぇ。やるじゃん、アメリカ。

手塚漫画では「ブラックジャック」と「火の鳥」が特に好きだったなぁ。なつかしや、なつかしや。

それにしてもテーマソングを全部歌えるとはすごい。昔兄の友達で、子供の頃好きだったアニメ番組のテーマソングばかりでなく、その番組の前のCMの音楽から台詞まで覚えているという人が居ました。もしかしてMiyuki嬢も・・・?
Commented by frogfreak at 2007-08-24 17:05
えーっつ“海のトリトン”って手塚漫画だったんだ。知りませんでした。TVは大好きで見てたのに。ちょっと作風が違いますよね。

私はブラックジャックが大好きでした。医学博士である彼だからこそあれだけ説得力のあって深みのある世界を出せたんだと思います。大人が呼んでも十分楽しめますよね。

比べて今の漫画やアニメのほうがよっぽど子供向けになってしまったような気もします。

Commented by シーラ at 2007-08-24 23:16 x
ジャングル大帝がテレビで始まった時、3年生でした。肉食動物たちも知性を持って草食動物と仲良くできるんだという設定がとってもとっても嬉しかった!
Commented by すれっぢ at 2007-08-25 01:38 x
ジャングル大帝がテレビで始まった時、産まれてませんでした。シーラちゃん!(笑)

友達が読んでたブラックジャックを借りて読んだのが小学生だったな~。
結構おどろおどろしい話で、怪談みたいな楽しさだったような。

Commented by shina_pooh_at_sfo at 2007-08-25 03:33
マンガは本当に日本の誇れる文化ですが、その中でも手塚治虫氏は日本人にとっても特別な漫画家ですものね。小型&厚めの漫画本に再編集された『ブラックジャック』を食い入るように読んだのを覚えています。(あれはいつ頃だったんだろう。。)医学博士を持ってたんですか。それは大きな納得。(さすが博学な Miyuki さん。)手塚治虫の作品の一覧を Wikipedia で眺めたら・・・すごい作品数なんですね。『火の鳥』、見てみたいです。

この展覧会、お嬢様も楽しまれていましたか?
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:40 x
*まきりんさん
わ、私も「リボンの騎士」が大好きでした!
手塚氏の経歴を色々漁ると、日本人以外にも信奉者はいるようで嬉しいですが、やはり10代には難しいかもしれませんね。
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:43 x
*マミィさん
そうそう、やるじゃん!って感じ(笑)
私も「BJ」と「火の鳥」、好きだったなあ~。でもこちらに来る前に、持っていた手塚作品を手放してしまって、今頃大後悔してるです。ああああバカだ俺ーー(涙)

子供の頃からほとんどTVは見ないヤツだったので、いまだにテーマソングを覚えていたのは、自分でもびっくりでございました。さすがにCMは覚えてない、というか、そのお友達、すごすぎだ! TVチャンピオンレベルですな。
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:49 x
*frogfreakさん
そなのですよ、トリトンもだったのです! 原作はそれなりに手塚風味だったのですが、アニメは結構アレンジされてましたからね~。
BJ、いい作品ですよね~! そうそう、大人をも楽しませるには、それだけの知識と説得力がないといけないわけですから、あれはさすがでしたね。
随分と長くアニメ・マンガ好きできた私ですが、はい、今のアニメは見られないです……年のせいが大部分なのでしょうが(くそう)、frogfreakさんのおっしゃる通りのこともあると思うー。
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:51 x
*シーラさん
おお、そういうことをきちんと覚えていらっしゃるのがすごい! 前から思ってたけど、シーラさんって、感動したことや疑問に思ったことを、ちゃんと形にできる方だなあ~、うーん憧れるーvv
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:53 x
*すれっぢさん
はいはーい、私、すれっぢさんと同い年です!(笑)
子供には「BJ」は衝撃でしたね~。だって内臓だらけだし。ロボットじゃないし。それでも怖いもの見たさで読んでましたなあ。ああ懐かしい。
Commented by Miyuki at 2007-08-25 11:57 x
*shinaさん
つくづくすごい業績を残された方でしたね~。実はかーなーり、人間臭い”神様”だったらしいですが、その功績の大きさは誰にも否定できませんね。「火の鳥」は全巻、しかも雑誌版の特別誌を持っていたのに、手放してしまいましたあ……あああああバカバカ俺のバカーー(再び)

娘は、これが意外と興味を示して、コミックスを手放した私を責めました……直接目にした原画の持つパワーと、横に簡単に書かれたストーリー、両方に惹かれたようですよ。


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