心のうちに在る風景を

多くの唱歌・童謡が教科書から消えたのは、1970年代以降という。
もう村というものがないから、”村”が入った歌はやめよう。”ねえや”は職業蔑視にあたる。等々、言葉狩りのような形で消された歌も多かったよう。
しかしここ数年のブームもあって、教科書に復活する歌も増えたようだ。

「幼いときにおぼえなければならないことを、おぼえないで成人した大人がふえた。それがどうしたと当人たちは言うだろうが、マザーグースを知らないイギリス人はない」
とは、山本夏彦氏の言葉である。

* * * * *

【読書】
b0059565_13494134.jpg山本夏彦著「世間知らずの高枕」を読む。コラムの達人による名物コラム、150編を収録したもの。
前に読んだ本で一気にファンになり、これが2冊目。ただ重複しているコラムも幾つかあったので、今度は選んで買わないと。



しかし変わらず圧倒される。何回読んでも目を瞠る。
800字、または1,200字。わずか2ページ、3ページ。それだけのものが持つ、切れと冴えと深み。毒と悲哀と温かさ。
文章力という言葉があるけれど、その言葉がこれほどふさわしく、また足りないと思える文は、探したってそうそうお目にかかれるものではない。
かいつまんで言え、ひと口で言え、字引はせいぜい5行か10行で言ってのける。それを基本とする氏の書かれる、極限まで削ぎ落とした文は、美しいというほかはない。古語と武士の美と思う。

また、各コラムのタイトルが秀逸だ。「敗者復活戦と称して」「三人寄れば閥」「あとの半年ゃ寝てくらせ」……以前に「タイトルだけが人生だ」というコラムを書かれたぐらいであるから、氏のつけられた題には一層の切れがある。たかだか日記の題すら悩む私には、到底できない芸当だ。(真似する気だったのか)(そもそも同列に置くな)

前の感想でも書いたが、氏の意見に手放しで賛成はしない。それは氏も本意ではない。
しかし例え異見を述べたところで、こちらの根拠は満足に語れず、またそれだけの深さもなく。ばっさりと斬って捨てられること間違いなし。
その語り口の鮮やかさと、意を違えようとも認めずにはいられない、核の堅固なその主旨と。
ミクロを観察しつつも、マクロの見方を失くさない。届かない場所から、幅広く深く据えられたその視点。惚れ込まずにはいられない。

小説家としても素晴しい書を何冊も残されているが、あまりにコラムが魅力的に過ぎて、まだ長編に手を出す気になれない。

* * * * *

【個人的事情】
縁あって、コーラスに参加することになった。といっても本番は来週で、練習はあと1回しかないというぎりぎり具合。
音痴の矯正にまでは至らないので、せめて足を引っ張ることのないように努めるしか。

日本の曲では「ふるさと」「真っ赤な秋」「赤とんぼ」などを歌うのだけど、そのうちの「赤とんぼ」について少々話し合いがあり。4番フルに歌うか、3番をはずすか、といったもので。

3番といえば、「ねえやは15で嫁にゆき…」という歌詞である。差別用語と指摘された”ねえや”が入っている歌である。
それでもコーラスの人達は、この3番をはずすことを渋る人達が多かった。
15という若さで少女が嫁ぐ。これを聞いて、差別だの職業蔑視だのを真っ先に思い浮かべる人の、幼い頃に育まれたものは一体何かと不思議に思う。

「この3番は、涙が出そうで好きでした。18年アメリカに住んでいても、まだ英語の歌で涙できないのです」
一人の方が言われた言葉が胸に沁みた。
幼い頃に得たものは、年月を経てからその熟した姿を現して、私たちにその意味と大きさを教えてくれるのだ。
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by senrufan | 2006-11-13 13:41 | Trackback | Comments(6)
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Commented by kiyo at 2006-11-15 14:19 x
なんだかこの本、是非読んでみたくなりました。今度機会があったら是非お借りしたいなぁ、、、、いいですか?
コーラスの本番は来週ですかぁ。頑張ってくださいね♪
Commented by peartree22 at 2006-11-15 17:14
3番の歌詞が差別用語として非難されていること、まったく知りませんでした。たしかに女性が差別されていた時代のことでしょうけれど、この歌を聴いて「けしからん!」と思う理由が私には理解できません。
むしろ、3番の歌詞はそんな時代のことは父や母からの伝え聞きでしか知らない私ですが、じーんときます。美しい日本語だなぁと思います。

アメリカのカレッジで歌を学ぶ前、たまたま行ったカレッジの歌のクラスのコンサートである女性が「浜千鳥」を歌ったのを聞きました。
日本を離れて1年もたっていなかったのに、涙がほろり。
これが、きっかけで歌のクラスにチャレンジしたのでした。
きっとMiyukiさんが参加されるコーラスを聞いて、多くの方が涙されることでしょう。素敵なコンサートになるでしょうね。
Commented by Miyuki at 2006-11-16 01:25 x
*kiyoちゃん
ぜひ読んでくれー! これでもいいし、もう1冊でもいいよー。
コーラスね……うん、がんばる……(考えただけで呼吸困難)
Commented by Miyuki at 2006-11-16 01:30 x
*ちゃんさま
私も3番は大好きで、いつもほろりとしてしまうのです。わあい、ここにも同士がいてくれた! ほんと、いろんな考え方があるとはいえ、こんな言葉狩りも、責任を負いたくないという例の態度にしか思えないのは、私の偏見でしょうか。
そして「浜千鳥」! 私もこちらで同じような経験があります。声楽家の友人がアメリカ人の前で歌ったのですが、涙ぼろぼろになってしまって、こっそり別室に行って泣いた覚えが。コーラスの皆さん、とても良い方&良いお声の方ばかりなので、私が本番中に涙してしまうかもです、てへ。
Commented by まきりん at 2006-11-16 07:38 x
差別用語っていうけど、その歌が作られた時の語感は変えて欲しくないな。コーラスに入っているのね。そこで歌われる日本の歌を聴いてみたくなりました。
Commented by Miyuki at 2006-11-16 13:59 x
*まきりんさんvv
本当に!>語感 だって、そんな意識で使ったのではなかったはず。
コーラスはほんの短期間だけなのですが、久々に歌う日本の歌、良いなあと幸せに思ってます。


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