地を耕す知の力

【学校】
ミドルスクールでお嬢が属する、体験学習型クラス。通常授業と平行して、グループプロジェクト主体でカリキュラムが組まれ、常時あれやこれやとやっている。

そんなクラスに今日、訪問者が来てくれた。オレゴンのカレッジに留学している、23歳のチベットの青年だ。

彼が育ったのはQinghai provinceにある小さな村で、読み書きできる子供は2人だけだったというところだ。
15歳の時に試験に受かって県立学校に行くようになり、翌年には首都にある大学で、英語を学ぶ生徒の一人に選ばれた。
このチベットの大学で英語を教えるプログラムは、米国とノルウェー政府が援助し、The Bridge Fundという団体を通じて始められたものだ。
ここでのトレーニングが自分の人生を変えた、と彼は語る。厳しい勉強を通じて、自分の村を含むチベットのコミュニティに何かしたい、という希望を抱く始まりとなったのだ。



The Bridge Fundに紹介された彼は、まずは自分の村にある寺院の修復の援助を依頼する。The Bridge Fundから資金を得て、地元民は労働力を提供する形でスタートしたこの修復が、彼が携わった初めてのプロジェクトとなる。
この仕事を通して、彼はコミュニティの発展の為のアイディアを多数学び、以降も次々と新しいプロジェクトを立ち上げていく。

近隣の村々も合わせて寺院の修復を進め、2002年にチベットのNew Year Filming Festivalを招致し、2004年には中国のRebgong Photography Festivalの開会式の舞台に選ばれる。
2001年にドイツ大使館とカナダ・米国の団体からの寄付と援助を受け、Solar cooker projectsを始める。
2002年、ニュージーランドの教授と共にチベットの昔話を集め、チベット語と英語の双方の本の編集に携わる。

2002年の夏、The Bridge Fundのインターンに選ばれた彼は、Solar cooker projectsを進め、更に奥地の3つの村へ、cookerとソーラーパネルの設置を実現した。
不毛な土地に立つ村では、煮炊きの為の燃料を集めるのが重労働であり、それはまた妻と子供の主な仕事の一つであった。しかしこのソーラープロジェクトにより、彼女達はこの労働から解放され、子供達は家に留まる必要がなくなり、学校で教育を受ける時間を得られるようになったのだ。

更に2004年には、ニュージーランドの援助により、Mill & Noodle Making Machineを村に、やはりソーラープロジェクトの一環として導入する。
この為に彼はアメリカからトラクターのエンジンを持ち帰って設置したが、先日帰った時、2年経ってもエンジンがぴかぴかで大事に使用されているのを見て、とても嬉しかったという。

今日の社会とチベットの離村の生活の差。ヤクや馬がいまだ生活の主な労働力と見なされている現状に、彼は胸を痛めている。
しかしこの現状を改善する為には、彼自身の教育も知識も足りない。いつか村に戻る日が来た時に、もっと役に立つ人間でありたい。
そんな希望の下に勉学に励んだ彼は、すばらしい成績で奨学金を獲得し、2003年から4年間の予定で、オレゴンのReed Collegeに留学生として在籍している。

彼の夢は一貫して、離村の学校の先生になることだ。
しかし今はその夢に、チベットのコミュニティの発展に尽くすNGOを始めたいというビジョンも加わった。

彼の住むエリアでは、5,000ドルあれば学校を建てられるという。
お嬢のミドルスクールの全校生徒は、約900人。全員から10ドル集められれば、学校を建てる十分な資金ができる。その資金を生かす方法は、彼が知っている。
彼の話が終わると、生徒達はすぐその資金集めのプロジェクトを始めることを決めた。
全校に呼びかける為に、まずは何をしたら良いか。校内放送や校内新聞を使おう、じゃあその原稿を作るには……
最初にその場で生徒のアイディアを聞いた時、彼は信じられない様子だった。が、そんな話し合いがスタートしたのを見て、みるみるうちにその顔は明るくなっていった。


国境も政府も過去の経緯も関係なく。人と人が真摯に向き合えば交流が生まれ、国籍が違えば、外交と呼ばれる交流が生まれることさえありうる。
ささやかなボランティアからNGOに至る類の活動は、見返りや謝罪の為に行うのではなく、その行為がまずは自分に喜びを与えることを知ってほしい。
チベットの為にまっすぐに前に進む彼が、23年という年月の間に成し遂げたことと、それを通して得た喜びは、きっと私達大人が生涯に得るものの、数倍に勝るのではないだろうか。
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by senrufan | 2006-08-25 11:09 | Trackback | Comments(4)
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Commented by miki at 2006-08-29 10:09 x
そちらは、もう新学期なのですね… 羨ましいー!
今こちらは、夏休み最終週の地獄の日々です…
あとは、自由研究。
おだてて、褒めて、脅して、怒鳴りつけて… のローテーション
暑さも加わり、へろへろです。
年をとるにしたがって、夏がしんどくなりました。
Commented by Miyuki at 2006-08-29 11:10 x
*mikiさん
そう、ようやく新学期ですー。長かった……!(しみじみ)
でもまだ日本語学校は始まってなくて、こちらも夏休みの宿題、それもそちらのお嬢様と同様、自由研究の仕上げが残っているのでございます。おだててあげられるmikiさんはえらい!私は怒鳴って怒鳴って怒鳴って(以下略)です。あと1週間、がんばって乗り切りましょーね!
Commented by ちゃん・りー at 2006-08-29 16:16 x
「学校、つまんなーーーい」と思っている某国の生徒に聞かせたい!いや、日々安穏と暮らしている自分に喝!若いパワーってすばらしいですね。絶望する事件などが増える中、未来が明るく感じられました。
Commented by Miyuki at 2006-08-30 11:10 x
*ちゃんさま
こちらって、何かあるとすぐBake SaleやCar Washなどでお金を集めるのが一般的ですよね。小さい頃からそういう環境で、それが当然として育っているので、こういうことも当たり前の考えなんだろうと思うんですよ。日本も時間をかけて、そうなっていくといいなあ。


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