ここから基盤までに在るものは

ベジタリアンとは、ベジタブル+アン、だと思っていたら。
ラテン語の「活気、健康」を語源に生まれた言葉で、本来の意味は「主として野菜食によって健康に暮らし、命を破壊して得た食べ物をとらない人」なんだそうだ。

野菜しか食べない主義、ではなくて、自分の生活の仕方の主張+社会への要望、というメッセージとして受けとめるべきと思われる。
こういう主義主張も含めると、人一人を描写する時、幾つ項目があることか。それには”肩書き”は果たして必要か。

* * * * *

【読書】
b0059565_131229.jpgロバート・ゴダード著「今ふたたびの海」を読む。歴史ロマンの上下巻。

時は18世紀初頭、南海会社のスキャンダルで、ロンドンの政界は大揺れに揺れていた。若き地図製作者スパンドレルは、借金が返済できない為に閉じ込められた日々を送っていたが、その代わりにと、「グリーンブック」なる帳簿をオランダに運ぶという、謎の密使の仕事を引き受ける羽目になる。
ところが旅先で罠にかかり帳簿を奪われた彼は、何とか奪い返そうとあがくが、その裏には計り知れないほどの陰謀が渦巻いていた。

私はゴダードの作品を読むのは初めてなのだが、どうやらかなり固定ファンの多い作家らしい。でもって、近作は不評が多いらしい。
しかし初読の私には、なかなか面白かったよ。

この南海会社というのは実際に英国に存在した会社で、戦争の負債を処理する見返りに、米国のスペイン領植民地との貿易独占権を得ようとした試みから始まった。政界の要人の大多数、果ては国王ジョージ一世までが関わり、一時は国債のほとんどが南海の株式に転換され、株価はすさまじい上昇を遂げた。しかし所詮は実体のない、政界の汚職を基盤にしたものであった為、下落し始めたらとどまるところを知らず、国王まで巻き込む大醜聞事件に発展したらしい。
本作はこの事件と、実際に関わった実在の人物達を描くと共に、架空の人物を巧みに絡ませ、重厚な歴史小説の態を成している。

”史実を尊重する”という思いにのっとったというこの作品は、巻末に史実の用語解説が何ページも付けられていて、読みながら註の為に幾度も巻末をめくった。メンドクサイと思わないでもなかったが、それを読まないと描写の奥がわからないからね。読んでもわかったとは言えないけどね(虚)



海千山千の政界人やスパイ達に囲まれながら、主人公のスパンドレルはあくまで純で平凡な青年だ。彼の成長物語も兼ねているのかと思いきや、これが最後までほとんど変わらず。
悪人・善人入り乱れ、稀代の悪女にも手玉にとられ、そんな想像もしたこともなかっただろう運命に翻弄されながら、確かに物事の裏を見る目は身につけていくのだけど、最後まで基である”善”は揺るがない。
それは百戦錬磨の政界人などから見れば、なんとも情けなく一顧だにされないものであろうが、そんな彼が懸命に立ち向かおうとするところに、同様に凡人の私はエールを送らずにはいられない。

しかし確かに不燃焼の気は否めない。スパンドレルを取り巻く登場人物達は、実在・架空に関わらず何癖もある人物ばかりで、実際の事件だけでも大長編になるほどのスケールのものであったろうに。今作ではどれも一応の形でまとめているものの、足りないという気持ちがぬぐいきれない。
非常に魅力のある材料があまりに多く、二転三転するドラマの要素も充実しているのに、それに足るだけの人物の描写が足りないように思えるのが残念なところか。
それはある意味、”平凡”を貫いたスパンドレルの存在が故かもしれないのが皮肉であるが。

ゴダードはこの南海会社事件を、「実際には何も販売しない会社」という共通項で、米国のドットコム・バブルと関連づけている。
何にせよ、これでゴダードという作家に興味が沸いたので、次は評判の高い初期作品に手を出してみる計画。
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by senrufan | 2006-08-22 12:55 | Trackback | Comments(0)
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