人目も色も

夏休みも半ばを過ぎ。
現地校は21日から、補修校は9月2日から始まる予定。

お嬢がようやくとりかかったのは、補修校の宿題の読書感想文。毎年これには苦労ばかり。
よしよし、私も一緒に読書感想がんばろー。たかだか…あと……15冊……

* * * * *

【読書】
b0059565_12201859.jpg藤沢周平著の獄医立花登手控えシリーズを読む。「春秋の檻」「風雪の檻」「愛憎の檻」「人間の檻」の4冊。
藤沢ファンの友人が、用心棒シリーズの次にお薦めということで貸してくれたもの。

江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。立派な医者になりたいとの野心に燃えて、江戸の町医者である叔父を頼って上京してきたものの、口うるさい叔母と娘にこき使われ、叔父は登に町医者と獄医を押し付けて酒びたり。
鬱屈とした日々を送る登だが、牢屋というところは事件に事欠かないもので。囚人からの頼まれ事で面倒に巻き込まれたり、冤罪を証明してみせたりと、得意の柔術と推理で数々の事件に携わる。

物語の出だしは、なんとも情けない登の生活ぶりから始まる。憧れ続けた叔父の実態を見せられ、使用人代わりにこき使われ、思わず思い出したよ必殺仕事人の主水さん(「婿どの!」)
おまけにどうにも真面目で洒落っ気がなく、叔母さん達の文句を言ってみたり、ご飯に不満を漏らしてみたり、それも表立ってはとても言えず、影でぶつぶつ言うばかり。

しかしそんな登が、捕り物となると見せる頭の冴え。さらに立ち回りとなった時の柔術の腕は、さすがに師範代なだけはあり。
威張っていた従妹のおちえも、登に危機を救われて以来、どんどん愛らしくなってゆく。後半はそんな2人の恋模様も楽しみの一つに数えられる。

藤沢氏の書かれる時代小説は、池波正太郎や吉川英治などと比べて、地味で生真面目というのが個人的な印象。立ち回りの派手な場面にしても、手堅い言葉が淡々と並び、爽快な激しさの色はない。
何より個々の話の終わり方。時代物であれば勧善懲悪なり義理人情なり、一件落着の味を期待するのだけれど、このシリーズではあっさりすぎるほど引いて終わっている話がちらほらあって、始めは肩透かしをくらったような気もしていた。
が、読み進めるにつれ、僭越ながらそれも氏らしいと思えるようになってきた。それは、何気ない描写にもきっと随分と勉強されたのだろうと思える跡があること、抑えた中の緻密さが揺らがないことが素人目にもうかがえるようになって、より信頼感が増したからと言える。
派手な描写や映像でごまかすことなく、ひたすら細部をも漏らすことのないように心がける実直さ。実際の時代を生きた人々に恥じることのないように、といった清廉さまで感じられる。読めば読むほど、じわじわと氏の力量に敬服するようになってくるのだ。

この借りた文庫版は”新装版”と銘打たれ、各巻末に藤沢氏の詳細な年譜が収録されている。1997年1月、肝炎の為に亡くなられた藤沢氏の業績を偲ぶ形式になっている。
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by senrufan | 2006-08-05 12:24 | Trackback | Comments(0)
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