傷しか残せぬものを

【読書】
b0059565_1220260.jpgジャクリーン・ウィンスピア著「夜明けのメイジー」を読む。
ここ最近読んだ中でも、文句なくお気に入りに入る本。読み始めてから加速度的にのめり込み、読み終わった後はしばらく胸が熱かった。

20世紀初頭、ロンドンで探偵業を始めたメイジー。初めてきた依頼は、上流夫人の浮気調査。しかしこの調査をきっかけに、奥に潜んでいた事件を探り出し、解決に当たることになる。

冒頭はメイジーの探偵事務所オープンのシーンからだが、このミステリーの合間合間に、メイジーの過去話を挟む形をとっている。メイジーの手がける事件の第一号と共に、メイジーという人間がどのような過去を持ち、どのような教育を経てきたのかということが、このシリーズ第一巻で描かれているのだ。
野菜売りの一人娘が、メイドから大学へ行く身になり、そして探偵という職を持つようになったのはなぜなのか。それはとても明るい立身出世としては語られていない。なぜならば、その主たる背景が第一次世界大戦であるからだ。

女性探偵物が一時期ブームになり、その中心は銃を握った逞しい女性達だった。
しかしメイジーは、こうやって読み終えた後でも、まだどのように彼女を表現していいか迷う。
非常に頭が良く、忍耐強い努力家で、大学で初めて世間に接した純粋無垢な少女。個性の強い友人の側で穏やかにはにかんでいるが、その目にははっとするほどの力を持つ。
はっきり言って、お世辞にも個性的とは言えない女性なのだ。なのに一旦接すると、不思議と自分について打ち明けたくなるような。危機的状況な時ほど、秘めた力を表に出すような。メイジーという人間の懐と知性の深さは、底が見えないとしか言いようがない。

戦争によって負った心の傷は、身体の傷と同様に簡単に癒えるものではない。今回の事件は、そんな積もった悲しみと苦しみによって生み出されたものである。そうしてその事件を解決しようとするメイジーも、また内部に止まることのない涙を流す身だ。
時代背景と登場人物達の痛みで重い作品であるのに、メイジーの無言ながらも真摯な姿勢に引かれて、最後まで読む勢いは衰えなかった。
彼女が今後経験する事件で、また一段と深まっていくであろう様子が知りたくて、次作がとても待ち遠しい。



蛇足ながら、表紙が森川久美さんの絵だったよ。ああ懐かしい、「南京路に花吹雪」……(しみじみ)(青春の1ページ)

* * * * *

【時事】
北朝鮮から弾道ミサイル7発がテスト発射される。
「我々にはミサイルをテストする権利があり、それを拒否することは誰にもできない」
義務をないがしろにする人ほど、権利を声高に主張する。
彼の国に生まれたが故に、目にかけられている覆いに気づかない人々のことを思うと、苦さが体中に広がるようだ。
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by senrufan | 2006-07-05 12:17 | Trackback | Comments(0)
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