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そこに山が在ることで (7)

「型をしっかり覚えた後に、『型破り』になれる」
   ----- 十八代目 中村勘三郎
       (日本人、歌舞伎役者・俳優、1955年5月30日~2012年12月5日)


〔追悼〕中村勘三郎さん 演劇評論家・藤田洋 

勘三郎氏のファンになったのは、まだ五代目・中村勘九郎でいらっしゃった時。
友人に誘われて、勘九郎氏の「鏡獅子」を観に行ったことがあるのです。

歌舞伎もド素人なワタクシですが、その目にも、氏の一挙手一投足が、どれほど美しく映ったことか。
古典芸能の「型」というものの強さと意味を、まざまざと見せつけられた思いがしたのでした。

現代の若者は、というと、いかにもオバサンなんですが、実際オバサンなので大丈夫。
手足を投げ出すように、電車の座席に座ったり、コンビニの前でしゃがみ込む。
あれは、彼らが身体の「型」を習わずに育てられた為、どうしたらいいかわからず、身体を持て余しているのだ、という意見を、養老孟司先生がおっしゃっておられます。

TVなどで演じる時も崩れることのなかった、勘三郎氏の所作の美しさ。
心においても身体においても、決してぶれることのない芯は、幼い頃から徹底的に教え込まれた「型」と、彼自身の才によって作り上げられたもの、であるのでしょう。

自由に、とか、個性を尊重、とか。
子育てにおいてのそういった望みには、勿論共感するのですけれど。
それでも親だからこそ、子供に教えなければならない「型」があるはずで。
それは、「価値観」や「美意識」といった言葉に置き換えられるものもある、と思います。

「型」を身につけて、使いこなした後に初めて、「型破り」が可能になる。
氏の名言を噛み締めつつ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

* * * * *

【旅行】

(Mt. Shasta 旅行記録)

6. Heart Lake

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私達が行った湖は、Heart Lakeではない、とおっしゃるロッキーさん(脳内仮名)。
ここから7分ぐらいだから、案内してあげよう、とおっしゃるロッキーさん(以下略)。

しかしその「7分」が、「彼にとっての7分」なのだということに気がつくのに、そんなに時間はかからなかったのでございます。




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出会って再出発した地点から、まずは傾斜が45度ぐらいの坂を、彼はひょひょいのひょい、と降りてしまい。
私達は、荷物を必死で抱えながら、ひいいいぃ、と滑り降りるようにして降り。

そんな感じで始まったトレッキングなんですが、ロッキーさんがとにかく身軽で速いんですよ。
お腹あたりはダブついていらっしゃるというのに(失礼な)、どう見ても私達より年上なのに、
こちらがゼーハーと、ついていくのが必死なのに対して、全然息も切らしてなくて、時々立ち止まっては、私達が追いつくのを待っていてくださって。


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その途中で見せられたのが、こちらのハートマーク
道沿いの岩に描かれた、幾つかのそれが、こっちがハートレイクへの道だよ、という案内なんだそうで。
こんなの見つけられると思っとるんかーっ!と逆ギレしそうになったです。(ぜえぜえ)

途中、大変見晴らしの良い岩の上に連れて行かれて、いよいよレイク!? と思いきや、
そこに置いてあったロッキーさんの手荷物を取りに寄っただけ。(……)
石に興味があって、散策しては、面白そうな石を見つけて拾ってくるんだそうで。
その分、知識も豊富でいらっしゃるようで、時々立ち止まっては、そばの岩や転がってる石について、教えてくれたりしたのです。


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で、7分なんかとっくに過ぎているのに、全然着く気配はなく。
あんな速さで歩いたら、そら7分かもしれないけど、私達はそうはいかないんだってばよ。

加えてやっぱり、彼に対する疑念が、完全払拭されたわけではないのであって。
ロッキーさんの後ろに、えなちゃん、Mikaさん、erinちゃん、私と続いていたのですが、
erinちゃんと、マジで大丈夫か、こっちでいいのか、と何回も囁き合い。
もしえなちゃんに何かあったら、その時はああやってこうやって、みたいな、脳内シュミレーションなんかもやっちゃったり。

そんな私達の心中を知ってか知らずか、
「この木に挨拶していく人が多いんだよ。帰る時は、また来るね、と言ってね」
と、笑いながら解説してくださいます。
良さそうな人じゃないか、疑って悪かったかも、あああでもおおおお、
みたいな葛藤が、肉体的疲労に更に拍車をかけるです。


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最後に、またかなりの登り坂を登った後で、あったああああ!!
これがHeart Lake、だったんですねーーーー!(絶叫)

あったんだ、こっちだったんだ、あああ、ロッキーさん、疑ってごめんなさい。
ってことは、あっちの湖に行く時に途中で会った親子連れも、あれがハートレイクだと思い込んでいたのかしら……


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ぜえはあと息を切らして、なんかもう色々ボーゼン、といった感じで、ぼーーっとレイクを眺めている私達を置いて、ロッキーさんが更に奥に進み始めたんですよ。
え、待って、もうこのまま帰るんじゃないんですか。


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ロッキーさん危険説再び、となったところで、すぐに目に入ったのが、この絶景。
またまた、疑ってすみませんー! と平謝り。(心の中だよ)

目のさめるような青いキャッスルレイクの背景に、シャスタ山とブラックビュート。
こういう感動があるから、トレッキングはやめられないのでありますな。って、普段全然やってないけど。


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この絶景の前で、えなちゃんのiPhoneで、ロッキーさんが全員写真を撮ってくださったのですけど、
この時にまた、メンバー内にちょっと緊張が走ったのは、全然秘密じゃありません。
ほら、知らない人には気をつけなさい、という親の遺言が(まだ健在です)


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離れがたい景色に別れを告げて、いよいよ本当に帰路につきました。

ロッキーさんに何度もお礼を言いつつ、色々とおしゃべりしてみましたら、
彼はシャスタに50年以上住んでいる、ということを聞きました。
ってことは、ここで生まれ育ったってことですか? え、三世代前から?
そうですか、じゃあシャスタ全体が、庭みたいなものなんですね。道理で身軽でいらっしゃる。

なんて話の流れから、何気なしにMikaさんが、
「じゃあ、UFOとか見たことがありますか?」
と尋ねた途端、ロッキーさんの顔つきが変わったんですよ。(きらーん☆)

そして、今まで何度も観光客に尋ねられたこと、自分があまりに良く知っているので、CIAかと聞かれたこともあること、NASAや軍の飛行機が調査に来たことなど、今までの穏やかなロッキーさんとはうって変わって、至極シリアスに話すこと、話すこと。

しまいには、
「前にUFOらしきものを目撃した場所に連れて行ってあげよう」
とかゆっちゃって、別の方向に行きかけたので、大慌てで、
自分達はこの後、レストランを予約してあるので、もう戻らないと、と必死で逃げ口上。身体はすでに逃げ態勢。
予約時間を聞かれて、1時間後(嘘)だと言ったら、大丈夫、ここから10分で行けるから、って、
それもまた「あなたの10分」でしょーが。私達には、絶対30分。

まだまだ引き止めたい気満々のロッキーさんに、なんとかかんとか別れを告げまして。
勿論、いっぱいのお礼も伝えましたですよ。本当に嬉しく、感謝しきりでありましたので。
しばらく行ったところで振り向いたら、向こうに去っていく彼の背中が見えました。


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別れた後で、堰を切ったように、皆でがががーっ!としゃべり始めたですよ。
怖かったー、無事で良かったー、結果として良い人だったけど、ずっとどうしようかと思ってたあああ、などなど。

特に、一番ロッキーさんの近くにいたえなちゃんの不安は、並大抵のものではなかったらしく、
彼が石を拾うたび、それで殴られたらどうしよう、と警戒ばかりだったそうで。
絶景の前でiPhoneを渡す時も、このまま盗む気じゃないだろうか、とか。
かと思えば、彼のトランクスがむちゃくちゃ気になって仕方がなかった、という下ネタ的不安要素を抱えていたメンバーも。(爆笑)

おまけに、あれだけ歩いたのに、ロッキーさんと別れた地点から、10分もかからないで駐車場に着けてしまったって、どおゆうことですか。
こんなに近かったなんて、と拍子抜け。じゃあ私達の速度だったら、間違えなければ、40分ぐらいあれば着いていたのかも。
帰り道は、そうか、この時にあっち方面に行ってしまったから、だったんだねえ、などと、確認しながら戻りました。
でも、私は二度と辿り着ける自信がありません……

結局、キャッスルレイクリトルキャッスルレイク、ハートレイクと、3つの湖に一気に行ってしまった一日でございましたよ。
あ、車で来る途中で、Lake Siskiyouも通ったから、合計4つですね。(強引)


それにしても、「呼ばれた人しか辿り着けない」ハートレイク。行けなかったはずなのに、行けてしまった私達。
きっと彼は、私達を導いてくれた天使だったんだよ。
そんな戯言を抜かしたのは、はい、私です。

イマドキの天使は、トランクスで現れるんだね!
最初にキャッスルレイクのそばで会った時は、あの格好でも不思議には思わなかったけど、山の中であの格好で現れた時は、ぎょっとしたよー!
大恩あるロッキーさんをネタにしまくって、帰りの車の中で大盛り上がり。
フトドキ者で、ほんとにすみません。

終わってみたら、なんとも楽しいトレッキング。
景色は綺麗で、空気は美味しく、どこまでも青い空は清々しく。
間違ったとはいえ、結果としてリトルキャッスルレイクまで行けたしね。いえす、ポジティブ。

シャスタに住む天使さんは、シャスタといろんな不思議を、当たり前に愛する方でした。
きっと彼の背中には、目に見えない羽があるのでしょう。


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(こらえきれず、再び爆笑)(心から感謝してるんですってばーー)
by senrufan | 2012-12-06 09:53


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