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さようならを言う前に

「自分とは直接係わりのない、まだ見たことも出会ったこともない人々のことも、少しは考えていられる人間でありたい」
   ----- 和田勉
       (日本人、演出家、1930年6月3日生まれ)


Gunn High School Paper Toss 2012



ほかの学校と同様、お嬢の学校でも、シニア(4年・最終学年)ならではの行事が幾つかあるんですよ。
例えば先日は、Senior Cut Dayというのがありまして。
この日に限り、シニアは堂々と学校をサボって良い、という日だったんですね。
4年間で1回だけ使える切り札、みたいな。

中でも、特にお嬢達が楽しみにしてたのが、このPaper Toss(ペーパートス)。
見たいよぉぉ、と騒いでた私の気持ちをくんでくれたのか、誰かが動画をアップしてくれておりましたです。ありがとう、ありがとう(愛)

4年間で溜まりに溜まったノート類や宿題を、カウントダウンの後、一斉に空に投げ上げる、という、この行事。
お嬢は、今までで一番の悪夢を見た、Chemistry Honorsのノートをトスしたそうです。
そしてそのまま、思いっきり踏みにじったに違いない

* * * * *

【学校】

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お嬢の高校で、生徒数人が続けて自殺したという悲劇が起こったのは、2009~10年のこと。
以来、お嬢が高校名を言うと、「ああ、あの自殺の」と言われるようになってしまいました。
そこにつけこむように、とある宗教団体がやって来たことも。
ちょうどお嬢の恩師が亡くなった頃と同時期なのですが、あの時から、すでにそんなに経ってしまったのですね。

でもね、大勢の子供達が、本当にこの高校を誇りに思ってるのです。
アイビーリーグを始めとする名門大学に、当たり前のように何割も進学するこの高校を、「大好き」と言う子供達が、確かに何人もいるのです。
つい先日、この学校がある街自体を離れた私達が、この市をいつまでも素晴らしいと思うと同様に。

街から、学校から、離れようとしているお嬢に、改めて思いを話してもらいました。
先月のSenior Promの写真を挟みながら、彼女の言葉を綴ってみたいと思います。
なるべく顔を出したくないので、足元写真ばっかりですけど(爆)




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この学校にいる間って、なんてゆうか、バブルの中にいるようなものなんだよね。
街自体がすごくリベラルで、教育レベルが高いし、人種バランスがとても良い。
だからか、人種差別をするどころか、差別する方を差別する、本当に素晴らしい場所だと思う。

で、みんな、それはわかってるの。大学に行ったら、外に出たら、そうはいかないんだ、って知ってるの。
でも実際に外に出ると、ああ、こんなにも違うんだ、とショックを受ける人も多いんだって。

私達、恵まれてるよ、本当に。金銭的にも、環境的にも。
でも、それに驕ってるわけじゃない、ってこと、どうかわかってほしい。
少なくとも私の周りでは、それをわかってて、それに甘えることなく努力している子が大半だよ。
だけど、世間はそうは見てくれないんだよね。あのカレッジのクラスで、思い知らされたように。

みんな、確かにプライドは高い。本当は自信がなくても、辛くても、決してそれを見せない。
恵まれているから、それを生かさなきゃいけない、ってちゃんとわかってて、感謝しているからこそ、前に進もうとしてる。

努力してるんだよ、みんな。いっぱい宿題をこなして、課外活動もして、睡眠時間もあまりとれなくて。
それでも、弱音を吐かずにがんばってる。恵まれていることを知っているから、そうでない人達がいることも知っているから、自分達にできることはやろうとしているんだよ。
ちっぽけで、子供な私達なりに、であってもね。


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但し、なんというかなあ、それが同時に、欠点にもなっているんだよね。
プライドが高い、ということが、結局、ほかの人への見下しに繋がってるところとか。

うちの高校って、とにかく”当たり前”のレベルが高いのね。
親も友達も、「勉強しろ」とは言わなくて、でも「Aをとって当たり前でしょ」と思ってる。
だから、あくまで戦うべきは、自分なの。自分の内側なの。
自分が何かをできないことを、ほかの誰のせいにもできないんだよ。恵まれているし、両親も尊敬しているから。

外からのプレッシャーよりも、内からのプレッシャーが問題で。
それが、すごく辛い子も多いんだろうけれど、それを外に見せようとしないんだよね。

あとね、リベラルでない、保守的な考えをバカにするところがある。
人種や同性愛差別をする人達をすごく批判する、それ自体は良いことなんだけど、そちらの考えも同時に受け入れる、ということではないのがね。
だから結局、自分達の価値観に合わない人達を批判する、という意味では、同じことをやっているんだよね。

ずっと前に学校で、「Out」っていう劇をやったでしょ。
保守的な親やクラスメート達を、ゲイの男の子と友達が変えていく、というストーリーで、すごく良い話だったけど、私は、あれは間違ってると思ったよ。
「受け入れること」がテーマだったのに、受け入れるべきはこちら側の価値観だけって、それは絶対違う。
結局、同じ差別じゃないか、って腹が立ったんだよね。

自分達の常識しか見えていない。
勿論、私達はまだまだ子供だから、仕方がないのかもしれないけど。
その常識が、いくら良いものだと思っていても、一方にだけ立って、他を見下すのはいけないよね。

本当のリベラルって、一体どういうものなんだろう。
アメリカって、否応なく違いを押し付けてくるところがあるから、すごく難しい……


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この街って、金持ちが多い、ってことになってるよね。
そして子供達にも、なんというか、跡継ぎ意識があるの。父さんと同じような地位や給料を得なきゃ、みたいな。

つまりね、
皆、この街が好きだ 
 → どうやってこの街に住んでいるか、といえば、親が金を持ってるから
 → こういう、好きな生活水準を維持するには、どうしたらいいか
 → 金を稼ぐしかない
という考えができちゃってるような気がする。
この街が、この価値観が当たり前だと思ってしまうと、すなわちそこに行き着いてしまうルートが見えるの。

先生や大人がいくら、「世の中にはいろんな職業がある」、「お金が全てじゃない」と言ったところで、なんか薄っぺらく響くんだよね。
や、頭では勿論わかってるんだけど、でも、横たわってる現実が違うから。
お金が全てだ、とは思ってない。でも、とても必要な道具だと考えてる、って感じかな。

悲しいことなんだけどね、たとえば成績が悪い子に向かって、
「そんなことやってると、一生マックのハンバーガー焼き担当で終わっちまうぜ」
と言う会話が聞こえたりするの。
勿論それは、相手の子がそうならないとわかっている上でのからかいなんだけど、よくよく考えれば、すごく残酷なセリフ、だよね。


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そういえばこの前、帰りのバスに乗っていた時に、ちょっとした事件があったんだよ。
私達より先に、作業服を着たおばちゃん2人が乗っててね。
高校前から学生達が乗り込んだら、そのおばちゃん達が聞こえよがしに、色々言い始めたんだよ。

「全く金持ちの子って、甘ったれてるわよね」、「自分達がえらいわけでもなんでもないのにさ」とか言ってたんだけど、みんな無視してたらね、
「結局アンタ達は、親の金でしか生きていけないくせにね」
と、隣にいた1年生に絡んだもんだから、それで皆が切れちゃってさあ。

「お前らは這い上がるだけだからいいけど、俺らは高みに居続けなきゃいけないんだぞ」
「お前らみたいな低所得な人生なんて、そもそも選択肢にねーんだよ」

ファイナル直前で、みんな疲れてピリピりしている時だったもんだから、こええぇぇぇ、という暴言吐きまくり。おばちゃん達、そそくさと次のバス停で降りてった。
いやあ、悪い時に悪い場所でケンカ売っちゃったねー、彼女達。前にもこおゆうことがなかったわけじゃないけど、皆いつもなら無視しているだけで終わるんだけどね。

だけど、その時に改めてしみじみ思った。みんな、そう思ってるんだ、って。
確かにすごいし、非難されるような筋合いはないと思う。それだけの努力もしてる。
だけどなあ、なんてゆうかなあ、ほんとに、上手く言えないんだけど………


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良く言われるのは、
「金持ってるんだから、わがまま言うな」とか、
「金持ちは、人生辛いとか言っちゃいけない」とか。
でも、それって違うよね。言っちゃいけない、と思うから、面と向かっては言わないけれど。

自殺が続いてしまっていた頃、道を歩いていた時に、通り過ぎたおばちゃん達が話してたの。
「そんなことぐらいで辛くて死を選ぶなんて、甘ったれてるのよ」
もうね、殴りたいぐらいに腹が立った。

何が悲しいかが違うだけ、なのに。辛いという気持ちまで否定しないで欲しいんだ。
ほかの人の当たり前がわからない私達が悪いのかもしれない。
でも、他の人からも期待されて、自分でも期待してしまう私達も辛いんだよ、って言いたい。
お金を持ってない気持ちがわからないのは確かだし、それについては申し訳ないと思うけど。

なんてゆうか、その人が命を捨ててまで見せたかったことまで否定しないで、って思う。
例えば、いじめによって辛かったということまでは、否定しちゃいけないんだ。
自殺する理由はそれぞれで、それがどれだけくだらなく映っても、その人にとってはくだらなくない、ってことはわかってなきゃいけない。
今の子は弱い・弱くないとかいう議論以前に、そういうことで責めていいの?って。

自分ができることを、たまたまできない人がいる。それは、認めなきゃいけないことで。
勿論、私も、こんなエラソーなことを言っても、全然できてないのは知ってるから。
それが、受け入れる、ということなんだよね。

うちの高校の私の周りの子達はね、余裕がなくても、いっぱいいっぱいでも、余裕があるように見せようとする。
それが彼らなりの、「受け入れる」ということに繋がってる、という気がするんだよね。
最終的には、自分の常識範囲で、ということになっても、自分が大変でも、理解しようとする努力をする。
そういう、前を向いた、真っ直ぐな子達が多いのが、すごく好きだった。


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私は日本の高校に行きたくて、父親の仕事のせいで押し付けられたアメリカが嫌で。
だから、日本の高校受験の時期とぶつかったSophmoreの年は、精神的にも一番キツかったし、現地校の成績も下がっちゃったしで、いやもう、抹殺したい黒歴史。(笑)
日本の高校に行ってないから、どっちが良かったなんて言えないけど。
でも少なくとも、この高校に来て良かった、と今は言えるよ。

皆から、街から、いっぱい色んなことを教わった。
周りがすごい、すごいと思うことばかりで、それに比べて自分は、と落ち込むことも多かったけど、それでもやっぱり、すごい人達に囲まれていられたことが、素直に嬉しい。

この街は、私が考える「最先端」のイメージが揃ってるんだよね。
自然がいっぱいで、ヒッピー精神に溢れてて、スティーブ・ジョブズの「Stay hungry, stay foolish」。
なんかね、グローバリゼーションと封建精神が同居している、というか。
ここで生まれ育った家族が沢山いて、しっかりコミュニティーを作ってるんだけど、同時にスタンフォードのおかげで、世界中から優秀な人達が集まって、更にコミュニティーを豊かにしているところが、「最先端」に思える。
子供の考えるレベルなんだろうけどね。

そういう場所で、本当に沢山のことを学んだよ。
ここに居られて良かった。ここに住めて、ここの学校で、私は幸せだった。

皆の将来が楽しみだし、いつまでも応援してる。後輩達の幸運も祈るよ。
何より、私自身が頑張って、前に進んで行かなきゃね。

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この日記を書くに当たり、羞恥心の限界に挑んだ=過去日記を読み返した、のですが、
どれもたまたま、「受け入れる」がキーワードの一つになっていたのですね。

その言葉を、お嬢が今回、自分的キーワードとして選んだことに、何やら胸がいっぱいになってしまったのでした。ええ、親バカです。


明日はいよいよ、卒業式の当日です。
by senrufan | 2012-06-03 14:49


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