持つもの全てを脱ぎ捨てて (前)

「実に多くの職人たちは、その名をとどめずこの世を去っていきます。
しかし彼らが親切にこしらえた品物の中に、彼らがこの世に活きていた意味が宿ります」
   ----- 柳宗悦
       (日本人、思想家、1889年3月21日生まれ)


ブリタニカ書籍版に幕 電子版に全面移行

すごくショックなニュースでございました……しみじみ、しみじみ、寂しいです。

幼い頃に家にあったのは、ブリタニカではなかったかもしれませんが、やはり数冊に渡る百科事典。
重たい本をよいしょ、と出して、ぱらりとページをめくれば、そこに広がる、未知の世界。
今でも、辞書や辞典を手にすると、そのわくわく感を覚えます。

IT時代で、ITの中心地にあって、尚且つお嬢に、電子辞書ではない、本の辞書を持たせていますのは。
こういう理由もありますが、それ以上に、何か調べた時に、ふと横にある別な言葉と説明が目に入り、そこからまた別な知識に飛び火していくという、あの楽しさを知ってほしかったから、でございます。
一つの言葉を調べようとしただけなのに、気がついたら1時間は経っていた、という、あのトリップの楽しさよ。そこらのドラッグなんて、目じゃございませんがな。(多分)

確かに今の自分は、何かわからないことがあれば、さっさとGoogleさんに聞いてしまうので。
この事態を招いた一人であると、潔く有罪を認めなくてはなりませんが。
そして、電子版になっても、きっとその中の言葉にそれぞれリンクが貼ってあることでしょうから、そこから別な言葉に飛ぶ、という行為は成り立つのではないかなー、とは思うのですが。

あの”紙”という媒体にのった、言葉と絵。
子供のうちは、それを自らの指と目で追っていくことで、過ごして欲しい。
電子版は、その後で十分間に合うから。

と思ってしまうのは、私がすでに化石レベルの旧人類になった、という証拠なのかもしれません。


ちなみに、電子書籍については、むしろ賛成派でございます。
もう入りきらないどころか、詰め込み過ぎて崩壊途中の本棚を見ながら、いっそ高速スキャナーを買って、「自炊」してしまおうか、と思うぐらい。

なんてところに、いつもお世話になっているシリコンバレー地方版さんが、こんな記事をのせてくださったのですよ。

1DollarScan / ブックスキャン サンノゼオフィス

こんなところでございますが、朗報をありがとうございます!(感謝)
電子書籍についての個人的グダグダは、機会があればまた。

* * * * *

【アクティビティ】

IMG_6944

SFMOMAで開かれていた、Francesca Woodmanの写真展に行って参りました。
開催終了まであと2日というところで、お嬢の学校が休みになったので、2人でとくと鑑賞したですよ。
つまり、現在はすでに終了しております……

大好きなsamanthaさんのブログで教わって以来、行きたい、行きたいと思いつつ、結果、ぎりぎりになったという……なんだ、いつものことじゃないか。(あっさり)




フランチェスカ・ウッドマン (1958年4月3日 - 1981年1月19日) 、アメリカ人、写真家。
米国の名門美大であるRhode Island School of Design(RISD)を卒業後、NYで写真家として活動しましたが、なかなか認めらない内に精神を病み、23歳という若さで自殺、その人生を閉じた女性です。
詳しくは、Wikiの説明にて。

お嬢が現在履修中のアートのクラスでは、このRISDに願書を送った生徒が数人いるそうで。
皆でとても仲が良い、大好きなクラスなこともあって、展示会の最初に彼女の経歴を目にしたお嬢は、ちょっとにっこりしてたりして。


     IMG_6941

作品は、のっけからヌードの連続で始まります。
彼女自身のセルフポートレートヌードや、もしくはモデルを使ったものや、色々と。

それも勿論、ただのヌードではなく、ガラスを押しつけたものなど、痛々しさを感じるものも多く、こちらまで痛みを感じたり。(ボディピアス系が苦手なヤツ)
その後、白黒写真が主な中、光と影が絡まる見事な作品が、次々と続きます。

展示作品は、彼女が活動した年代順に区切られていて。
十代の頃の写真から、1977~78年、RISD在籍中に、ローマに2年間留学した時代、
1979~81年、NYで写真家として活動していた時代。
NY時代は更に、1980年の夏、ニューハンプシャー州のPeterboroughにある芸術村、McDowell Colony 滞在時の写真も含みます。

Wikiに、良く知られている写真のリンクが貼ってありますので、よろしければご覧くださいませ。
その中から、3枚ほど画像をお借り致します。


   woodman3

どの作品もすごかったのですが、特に最初の方の、学生時代の写真に惹かれましたね。
白黒だからこそ成し得る芸術、というものを、改めて見せつけられた、というか。

彼女の作品には、「Angel Series」や「Eel Series」など、シリーズで名のつくものもありますが、大抵のものはタイトルを持たないようで。
こちらは、「House」という、廃屋めいた部屋で撮影されたシリーズの中のものです。


   woodman2

水玉ドレスを着た女性の「Polka Dots」シリーズには、この展示会やドキュメンタリーフィルムのポスターになるぐらい、有名な1枚がありますね。
意識的にせよ無意識にせよ、動きをとらえきれないのが、逆に芸術性を高めていて。
今のデジカメになって、カメラを選べば、猿でも私でも簡単に写真が撮れる時代にあって、彼女の作品の希少性が光ります。


なかなか写真が認められないことで、徐々に落ち込んでいく彼女。
更には、アーティストであった両親の、宗教とも言えるほどのアート信奉が、また彼女を追い詰めた、という説もあるようで。
どんな自殺もそうですが、本当の理由は、本人にしかわからないものですから。

ただ、わずか4年ほどの間であっても、彼女の作品の変化が見受けられ。
最初の頃の作品の鮮烈さは、後半にあって、円やかさを帯びたような、悪く言えば、何かを失ってしまったかのような。
それは、彼女が訴えたかったものが、何度も壁にあうことで、その振り上げる拳を下げてしまったのかもしれず。

同時にそれは、「成長」でもあった、と思える作品も、何枚もあったのですが。
展示会の最初に見た作品に、深く見入りすぎた為か、やや寂しさを感じてしまったのは。
私自身が年を取ってしまったが故に、であったのかもしれませんけれど。(自虐プレイ)


     franscesca woodman1

展示会の後、カフェでランチを食べながら、お嬢と色々話しました。
彼女のウッドマンの展示会の感想は、すごい写真家だと思うけど、基本的には苦手、だそうで。
全般的に漂う自虐的なムードに、辛くさせられるから、というのが理由でありました。
後で聞いた話ですが、彼女のアートクラスで観に行った子達も、同様の感想だったそうです。

ウッドマンの作品に見られる、十代の痛々しさや切なさ、やり切れなさが、
同じ十代だからこそ、心に響く面と、だからこそ遠ざけたくなる気持ちと。
その子その子によって、違う感情を持つのかもしれないなあ、なんて思ったです。

お嬢のアートクラスの先生は、なかなか芸術家気質というか、描く絵も、かなりグロかったりイタかったり、というアーティストなんだそうで。
その先生が以前に口にした言葉が、
「幸福な人間に、良い絵なんて描けないわ」
つまり、不幸でないと、良い画家にはなれない、というのが持論らしいです。

幸せな人にだって、素晴らしい絵は描けるし、素晴らしい写真も撮れるのに。
先生にそう思わせるだけの絵が描けたらいいんだけど、そんな才能はないのが悔しいなあ。

そういう、彼女の言葉を聞きながら。
つまり君は、自分が幸せだと思ってるってことだよね、と、ひっそり喜んだ母でした。


     IMG_6972

ウッドマンが、果たして幸せであったのか、不幸であったのか。
死を選ぶということは、少なくとも最後の方では、この世界にいたくなかったということであるのかもしれませんが。

瑞々しいまでの肉体をモチーフにして、天使の写真を創っていた彼女。
遠い世界への憧れを、常に持ち続けていたのかもしれません。


IMG_6935


FRANCESCA WOODMAN
November 05, 2011 - February 20, 2012


San Francisco Museum of Modern Art

*-*-*-*-*-*-*-*-*

次回は、こちらの美術館の屋上やカフェについて、補足をば。
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by senrufan | 2012-03-21 00:24 | Trackback | Comments(14)
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Commented by lizzyco at 2012-03-23 00:43 x
写真、しかも白黒写真、というのに惹かれまして。。。すまぬ、一言以上を。。。
彼女の写真ですが、うん、大学のアートのクラスにこういう感性を持った人を何人か見ます。すごく自分に自信があるし、実際に凄い物を持っているのですが、周囲からは自分が思っているのと同じ、もしくはそれ以上には認められない。それはお嬢さんがおっしゃった事に起因するのではないでしょうか。例えば、最初の写真、Houseシリーズの一枚ですが、シャッタースピードをかなりスローに設定し、落ちる瞬間に動いています。アパチャーの開閉度も抜群で、オーバーエクスポジャーする事なく、本当に技術的に見事。ですが、そこから万人が共感出来る物を感じる事は、私には出来ません。絶対的な自分、もしくは自分の世界を持っているけれど、悪く言えば独りよがり。を、たった一枚の写真からではありますが、感じます。一緒に行ければ良かったなぁ、としみじみ思います。今度何かありましたらぜひご一緒に。と、らぶこーる。
Commented by ノンノン at 2012-03-23 01:10 x
だから私はwikipedia が大好きです(笑)。
どんどんリンクで飛んでいけるから。
歴史上の人物なんかだと、この人のお父さんはどんな人で、この人のお姉さんは違う国のだれそれと結婚して、ということはこの二人は実は親族で(!)、とかやっていると止まらなくなったりして。
楽しい!!
Commented by sivasiva21 at 2012-03-23 05:13
うちの息子(9歳)にも紙の辞書を使わせておりますが
すぐにトリップしてしまい、何を調べていたか忘れてしまう始末。
時間がかかって仕方がありませんが、Miyukiさんの文章を読ませていただいて
そこを怒らずに見守ってやることも必要なのだと再認識。
うちの場合、前後の言葉じゃなく挿絵に反応しておりますが
ただでさえ少ない日本語の語彙力、一つでも多く言葉に触れるのは
きっと無駄じゃあないですよね。
Commented by ricomame at 2012-03-23 06:11 x
すごい~。これやっぱり見たかったな。一人で行こうと思ったのだけれど結局、のがしたのだ。写真のことが分からない私には単純に”絵みたい!すごい~、きれい!”の世界です。Polka Dotsのシリーズ写真が好きです。ほかの写真のグロっぽいいたさは苦手ですがみゆきさんが紹介されている3枚は、私は普通に好きです。多分、10代はとっくに過ぎているからこの痛みを生々しく感じることはなく、でも微妙に屈折してる自分にはアリなんでしょうね(苦笑)でもポスターを部屋に飾ろうとは思わないけど。
Commented by Miyuki at 2012-03-23 10:39 x
*lizzycoさん
なるほど、なるほど! 私にはテクニック的なことは全然わからないので、説明していただいて、改めて彼女の技量を知りましたです。うんうん、若い時だからこそ撮れる写真というものがありますよね。でもって、同年代だからこそそれに共感できる人もいるでしょうし、年を取ったからこそ新鮮に感じる人もいるでしょうし、やっぱり互いの感性の出会いなんですなあ。万人に受け入れられる芸術というのはないので、創る側の勇気や自信、割り切りって、本当に大変なことだと思います。私もlizzycoさんと写真を観に行きたいっ!! 取ってらっしゃるクラスの先生が、お薦めの展示会を教えてくださらないかしら。
Commented by Miyuki at 2012-03-23 10:41 x
*ノンノンさん
あ、一緒です、一緒! Wikiでも、百科事典と同じことをやってます私(笑)
私達のように、ある程度大人になってからは、それでも良いと思うんですが。
子供の頃は、まずは紙で始めてほしいんですよねえ……娘の周りの子を見ていて、その方が私的に好ましい結果を出している子が多くて。
あくまで個人的な好みなので、勿論異論は沢山あると思いますけど。
Commented by Miyuki at 2012-03-23 10:54 x
*Yumiさん
おお、そうですか! それはご子息、幸せです♪
でもお母様のイライラする気持ちも、すんごおおおおおくく!良くわかります~~。(ちょー経験者)
でも自分の子供の頃を思い返してみても、新しい知識に出会うことを一番わくわく感じられたのは、正にそういう時だったんですよね。知りたいという気持ちをくじくことなく進めたら、ほんとに素敵だと思うのです。
おっしゃる通り、特に日本語のことを考えると、一語でも興味を持ってくれることは貴重ですよね。その動機になってくれるなら、この際マンガでもアニメでも!(笑)
Commented by Miyuki at 2012-03-23 11:00 x
*ricomameちゃん
私も逃す寸前だったよ~(汗) 私もテクニック的なことはちょー無知だから、好きか嫌いか、だけなんだけど、中でも好きだなあ、と思うのは、やっぱりイタくない写真だった、てへ。ricomameちゃんが言う通り、「毎日見たい写真」と「衝撃を受ける写真」はなかなか両立しなかったりするよねえ。良い写真展があったら、一緒に行きたいよ~。
Commented at 2012-03-23 11:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by KawazuKiyoshi at 2012-03-23 12:06
ブリタニカがすべて入っているという電子辞書を発注して今日着くというばかりでした。
大きな場所を占めていた百科事典が
まったく、驚く時代です。
小さな電子辞書には、とてつもない情報が満載だとか。
読みつくせるのかなー。
ふふふ
今日もスマイル
Commented by ノンノン at 2012-03-23 12:12 x
そういえば、Wiki 好きなのは個人的な事情も大きいかも。
祖父はとても優しい人だったんですけど、「わからないことがあったら辞書で調べなさい」とよく言ってたんです。なので、辞書をひくのは面倒だなぁと思う一方、調べないとなんだかいまだに罪悪感が。
でもおじいちゃん、もう私は大丈夫よ、Wiki があるから(笑)。
Commented by Miyuki at 2012-03-24 04:27 x
*非公開コメントさん
こ、こ、この写真家さん、すごく良いーー!! 道行く人や街の景色、そうそう、こおゆう一瞬が見たかった、の連続ですね!教えてくれて感謝です。
そして写真展のお知らせもありがとうございます~~。灯台下暗しでございました。行かねばなりませんな、ぜひぜひ。
というか、再来週あたり、皆で一緒にいかがでしょ? ここなら良いカフェもあるし、ピクニックもできるし、撮影会もOKですよね。
Commented by Miyuki at 2012-03-24 04:28 x
*Kawazuさん
えええ、そうでしたかー! それはうらやましいです~~。
読み尽くせなくても良いのです。ずっと続く楽しみが沢山あるということが、また良いのです♪
どうぞ楽しんでくださいますようにvv
Commented by Miyuki at 2012-03-24 04:34 x
*ノンノンさん
んまあ、お祖父様、素敵です~vv
私も正に同じことを両親や周囲に言われて育ち、娘にも同じことを言い続けております(笑)
自分で調べる方がきちんと覚えますし、トリップもできますしね~♪
……と思って、娘にそう教育してきたのに、「全然助けてくれなかった」と恨みに思われてるのは解せませぬ。


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