それは身体が決めること(番外)

「一滴の油、これを広き池水のうちに点ずれば、散じて満池に及ぶとや」
 (小さくても行動を起こせば、世間に広がっていく)
   ----- 杉田玄白
        (日本人、蘭学医、1733年10月20日生まれ)


        困ってるひと

困ってるひと

愛しのゆみたちさんから教わった、大野更紗さんのサイト。
こちらを元にしたが出版されて、大評判になってますね。

ゆみたちさんから教えてもらったその晩、一気に読んだのですが、いやもう、なんと申し上げて良いのやら。
泣きながら笑って、笑いながら泣きましたです。

大変な難病の身でありながら、執筆やインタビューなど、事情が許す限りの範囲でこなしていらっしゃる更紗さん。
彼女から語られる日本の社会保障制度事情は、正しく耳を傾ける価値がある、と思います。

MAMMO.TV:#294 みんなが踊れる世の中を目指して(大野更紗さんインタビュー)

* * * * *

【雑事】

前回からビミョーに続いてます)

     IMG_4410

元々、なんで日本のリハビリ事情が気になったか、というと。
去年ふと見た日本のTVニュースで、リハビリの診療報酬改定後の、患者さん達の様子が放映されていたのを目にしたから、でございます。
その中で女優の真屋順子さんが、脳出血で倒れられた後、リハビリに励んでいらっしゃる様子が映されていて、なんとも胸に迫ったのです。

以降、細々と調べたり読んだりしてまいりましたが、全くもって、なんでこんなにややこしいんですか、保険っちゅーもんは!(オマエだけだ)
とりあえず、特に私にとってありがたかった、世界的免疫学者の多田富雄先生の著書などを元にして、ほんの一部についてだけ、少々まとめてみるテスト。




当の、診療報酬改定とは。
2006年3月末、小泉政権下においてなされた改定で、医療保険の対象としては、一部の疾患を除いて障害者のリハビリを、発症後180日を上限とする、という内容。
つまりそれまでは、治るまで無制限で受けられていたリハビリが、費用的には自己負担を3割として、何年でも続けられていたリハビリが、180日という有効期限を設けられたことになるのですね。
そして、それ以降も続けたい場合、費用は全額本人負担に。
もしくは、介護保険のデイケアのサービスを受けることを薦める、となっているものの、肝心の介護保険では、医療としてのリハビリの体制ができていない上、若くして病を得た患者は、当然その対象にはなりません。
結果、治療を拒否され、行き場を失った患者さん達を指して、「リハビリ難民」という呼び方ができたほど、だそうでございます。

この”180日”という期限には、どういう意味があるのか。
例えば脳卒中の発症後の経過をとってみると、一般的に3段階に分けられるそうで。
発症・内科・外科的治療などの急性期、入院中の施設におけるリハビリを行う回復期、退院した後のリハビリ・再発予防・日常への復帰をめざす維持期、ですね。
それぞれの期間がどれだけの日数を要するかは、本当に患者さんによって、全く異なるのですが。
リハビリには「半年の壁」があると言われていて、回復曲線が半年でほぼ飽和し、頭打ちになることが多いのだそうです。
なので180日というのは、それを基にした試算日数であり、個々によって大いに幅のある回復期と維持期を、無理やり180日で区切ったもの、と考えざるをえません。


この改定に対して上がった非難の声は、相当のものだった模様です。
中でも、多田富雄さんが加わった「リハビリテーション診療報酬改定を考える会」では、48万人もの反対署名を集め、厚労省に手渡しました。

ところが、厚労省からは何のアクションもなく。
大手新聞もとりあわない姿勢が大半の中、地方紙では批判の社説が続々掲載された上、地方自治体でも、反対の議決が相次いで可決。
にも関わらず、厚労省は無視し続けたそうです。

1年ほど経った頃、保険診療の医療費を審議する、中央社会保険医療協議会(中医協)の土田武史会長が、見るに見かねて緊急の見直しを命じたことにより、ようやく改正に向けて動き出し。
しぶしぶ厚労省は、上限日数の緩和や、維持期のリハビリについて認める通達を出したそうですが。
肝心の中身は、幾つか条件を加えることにより、土田会長の改正案を、狡猾にも無効にする内容になっていた、のだそうです。

180日という上限日数を緩和したのは、心臓血管疾患などのごく一部の疾患のみで、大多数を占める脳血管疾患などは含まれず。
そして、維持期のリハビリについても、緩和されたのはあくまで、介護保険のリハビリが対応できるまでの間のみのこと。
更には、診療報酬の逓減制を持ち込み、上限日数を越える場合は、治療報酬を安く設定したものだから、医療機関によっては、診療を断るところも出るでしょう。

なぜこのようなことが行われたのか、ということに対して、
国が負担する医療保険ではなく、地方自治体管轄の介護保険に丸投げして、国は医療費と責任から逃れようということだ、という見方がされてます。
安い医療保険ではなく、高額な設備や人的予算のかかる介護保険では、リハビリ難民となった患者さん達が押し寄せてきたところで、対応できるはずなく。
一体今では、何がどうなっているのか、暗澹とした思いしか抱けないのが、とても辛いのでございます。


リハビリには、3つのカテゴリーがあるそうです。
歩く練習を中心にした運動の訓練である理学療法=Physical therapy(PT)、日常の仕事を中心とした訓練である作業療法=Occupational therapy(OT)、そして言語療法=Speech therapy(ST)
アメリカでは、この3つがうまく機能するように、リハビリテーション医学が独立した存在となっていますが、日本ではまだまだ確立されていない上、その苦労に見合わない低収入である為、人材不足も甚だしいのですね。
彼らの持つ技術や知識は、大脳生理学から解剖学などまでに渡る、素晴らしい専門職でありながら、です。
よって本来は、患者さん一人ひとりに合った治療計画を練り、綿密に治療に当たらなくてはならない分野であるのに、療法士1人に対し、患者が10人などという割合も珍しくないとか。

回復曲線が飽和状態になったところで、それ以降回復が見込めないわけでは、決してないのです。
加えて、そこまで回復したら、もう何もしなくて良いのかといったら、とんでもない。
リハビリをやめた途端に、回復曲線は見る見る下降しますから、ただ現状維持の為にも、その努力を絶えず続けていかなければならないのが、患者さん達の実情です。


小泉政権華やかなりし(?)頃、すでにアメリカに来ていたこともあって、実際を良くわかってなかったのですけど、終わってみれば、まあ出てくる、出てくる、負の遺産、といった感じですね。
障害者のことやリハビリ制度のことに加えて、震災後の対応や放射能対策なども全部含めて、一体日本の民主主義というものはどういうものなのか、ということまで考えます。

最大多数の最大幸福、という割り切り。自分がその座にある期間内に成果を出さねば、とやっきになる政治家が持ってしまえば、こういうことばかりになってしまう。
かといって、どんな立場の人も問題がないように計るのは、万人に喜ばれる政策がありえないように、理想に過ぎることではありますが。
それでも、環境やエネルギー問題など、少なくとも任期内では絶対に終わらず、その中に詰め込もうとすること自体が危険である問題が多々あるのになあ、と思います。


旦那が現在アメリカの会社にいるので、このまま永住するのか、と良く聞かれますが。
基本、老後は日本に帰りたい、と今は思っておりまして。
というのはアメリカの保険は、「金のないヤツは死ぬしかない」というものなので、病気が心配される老後は、日本の保険制度にお世話になりたいのでございますよ。

ところが、こんなことが実施されているようでは、日本で脳卒中でも起こそうものなら、お金がなくてリハビリを受けられず、リハビリ難民→寝たきり、になりかねないじゃないですか。
私達の老後の生活設計を、一体どうしてくれるのだ。(誰に)(大した設計でもなかったくせに)
せめて日本にも、アナット・バニエル・メソッドが普及してくれたら、とか、アメリカのリハビリ医学がもっと取り入れられたら、と切に願わずにはいられません。

日本が北欧ブームになってから、しばらく経つようですが。
以前から北欧に憧れていた私は、それは何に憧れたブームなのか、ということを考えます。
手厚い生活保護や老後のケア、そして高水準の教育。全て高額な税金によって賄われているもの、なのですよね。
要求、受け入れ、自由、譲り合い。どこが、何が、最大の幸福をもたらすポイントなのかという見極めは、本当に難しいことと知っています。
そらもう、こんなコソコソ日記ですら、たかが一記録内で、どの立場・どの範囲内で書くかと悩むわけですから、国家レベルはほんとに大変だ。つか、比べるな。

最大多数の最大幸福。
最大値はあくまで100%、でありますな。
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by senrufan | 2011-10-20 12:43 | Trackback | Comments(14)
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Commented by erika at 2011-10-21 15:24 x
またまた失礼します(笑)興味深く読ませていただきました。
アメリカの保険は、日本以上にリハビリのカバー無いですよ~。
アメリカでPTをしている友人の母が、一昨年脳出血で右麻痺になってしまって、日本のリハビリ事情を知ることになったんですけど、比較すると日本の方が保険でリハビリをカバーする日数は断然多いように思いました。
今でも外来に行きたい時に行けるという状況らしいですよー。2年経っていて、新しい症状が出てきたという訳でも無いのにそれが可能という話でした。アメリカじゃあり得ないねーーと話してたんです。
私、全然日本の医療に詳しくないんですけど、ベストコンビネーションは、お医者さんとセラピストはアメリカ、看護師・看護助士と保険制度は日本、だと思います(笑)ちなみに、老後は日本を希望です!
Commented by KawazuKiyoshi at 2011-10-21 17:15
アメリカにいる頃は、何しろ病気にならないことと思って過ごしていましたね。
一度だけ足のぐわいが悪くなって、松葉杖を出されました。
あれは高かったなー。
ふふふ
今日もスマイル
Commented by ゆか at 2011-10-22 03:00 x
すごく分かりやすかったです。本当に、原発事故も小泉政権の負の遺産が原因(安全対策の骨抜き)なのに、誰もそれに言及しないのが不思議です。
勉強になるので、これFBでシェアしていいですか?
Commented by Miyuki at 2011-10-22 10:02 x
*erikaさん
コメント、すっごく嬉しいです! 今回はできたらerikaさんやHirokoさんに色々教わりたかったのです~。
なんとアメリカ、やはりそうですか! ほんとに、お金がなかったら生きていけないこの国……(涙)
アメリカにいるからこそ余計に、日本の保険は素晴らしいと思っていたので、今回の改正はショックだったんですよ。他国に比べて立派なのだから我慢しなきゃいけないと……とはやっぱり思えないんですよねえ。それでも、まだまだある程度のレベルは保ってくれているのですね。erikaさんに教えていただいて、少しほっと致しました。
そのコンビネーション、私も大賛成です!(笑) 素人目から見ても、ほんとにそうだと思います~。
老後は日本がだめなら、いっそカナダかしら?
Commented by Miyuki at 2011-10-22 10:04 x
*Kawazuさん
ほんとにここにいると、予防が一番と思わずにはいられません。
アメリカって税金その他は安いのですが、見えないところにとんでもなくお金がかかる国ですよね。医療費とか教育費とか。
うーー、考えると切ないので、とりあえず今日もにっこりでがんばりますっ。Kawazuさんのスマイルに、いつも励みをいただいておりますvv
Commented by Miyuki at 2011-10-22 10:05 x
*ゆかさん
そうそう、原発事故で更に実感しましたよ~。ゆかさん達はとっくに知っていたことなのよね、余計に辛かったことでしょう……
こんな駄文でよければ、どうぞどうぞ。
Commented by yumikodi at 2011-10-22 11:13 x
ううむ、愛するMiyukiさんの手にかかると、問題点がわかりやすい。
私の両親も、コウキコウレイなんたらかんたらといって、保険料が高くなっているし、介護保険料も馬鹿にならない。
日本はどこに向かっていくのかしら。
Commented by Miyuki at 2011-10-23 03:50 x
*両思いのゆみたちさん
いやいや、ここに書いたことしかわかってないの……情けなさに涙が出ます。
そう、私もうちの両親から、コウキコウレイ話や介護保険の信じられない点など、色々聞いてるです。
私達の時はどうなってるのかも怖いけど、小僧様やお嬢の時代のことを考えると、少しでも長く続けられるシステム作りを、今からやっていただきたいと思うよね~。
Commented by at 2011-10-24 09:43 x
こんにちは、はじめまして。
PA州に住んでいます鈴と申します。
1ヶ月程前にこちらのブログにたどり着き
過去ログをさかのぼりながら
毎日のように読ませてもらっていますが
ブログではなくまるで本のようです

そして今、サラさんのサイト読んでいますが
すごいエネルギーですね
父が亡くなる前に体力は無かったですが
生きるエネルギーを感じたというか
魂いうかそんなものを感じたんですが、
サラさんの文面にもそんなものを感じますね

Commented by Miyuki at 2011-10-24 10:35 x
*鈴さん
初めまして! コメントありがとうございますvv
PAにお住まいですか。私にとっては、米国発祥の憧れの州ですよ~♪
うわわ、過去日記に関しては、恥ずかしさのあまりのたうち回りたいぐらいなんですが! どうかどうか、ほんとーーにお暇な時の暇つぶしとしてご覧いただきたく~~~(動揺)

生きるエネルギー、魂。正におっしゃる通りですね~。
命を有限のものとして真正面に受けとめられた人こそ、発することができるもののような気がします。
これからも、どうぞよろしくお願い致します!
Commented by kikoro at 2011-10-25 16:06 x
Miyukiさん、うちの母はアメリカでリハビリを受けましたよ〜。脳梗塞後のリハビリですけど。うちはアーリーリタイアだったし病気をした時はリタイア後の保険も切れていた(リタイア後5年は現役と同じ保険がつかえたようです。)3日間の入院で2万ドルかな。ただ、リハビリは無理矢理3日で退院したあと本当にすぐ、10日後くらいからセラピストが確か、週1くらいで来てくれました。ただ、それはそんなに高くはなかったとおもうけど有料だったきが。退院後に薬を2種類出されるのですがどちらも結構高額なのをドクターが色々調べてくれて1つは安くなってました。多分、セラピストに通ってもらったのは2〜3ヶ月だけだったと思います。でもその時に教えて貰った事は自分でも出来る事なので大変助かったようです。何よりも倒れて本当にすぐにリハビリをさせてもらえた事が一番良かったようです。母は確か3月に倒れて左半身麻痺でしたけど、7月か8月には一度、日本に帰国出来てましたから。毎日、本当に沢山歩いて、教えて貰った体操をする、食事を制限するをきちんと続けてました。
Commented by kikoro at 2011-10-25 16:07 x
だらだらと長くてすみません。
母をみて思った事は多分、すぐに体を動かしてリハビリするのが一番大切なんだなと。もしセラピストがいないならその運動のDVDとかでも良いのでそれを見ながら家族と運動するとかでも大分違うのではと思います。
Commented by Miyuki at 2011-10-26 10:14 x
*kikoroさん
お母様、そうでしたか~。それはkikoroさんも、さぞご心配だったことでしょう……
3日間で2万ドルにはくらくらですが、良いドクターと良いセラピストさんに当たることができて、良かったですね~! ほんとに、アメリカの医療の質には文句はないのです。問題はシステム、なんですなあ。
お母様が2~3ヶ月かかられて、その後自宅でご自分で、というのは、”180日”の点から見て理にかなってると思うのですが。もっともっと重症の方は、到底3ヶ月では足りないし、それ以降も専門の方に見ていただかないとできないリハビリが多いのです。中でも、嚥下困難になられた方は、毎日の食事ごとに苦しまれるわけで。そういうところまで、低料金で見てもらえるのが、日本のケアの良い点であったのですけどねえ。ふう。
Commented by Miyuki at 2011-10-26 10:17 x
*kikoroさん
なるほど、なるほど! 急性期のケアは特に大事ですもんね。その時に良いドクター&良いセラピストにかかれるよう、ある程度調べておくのも良いかもしれませんね。私も家族に何かあった時に、少しでも役に立てるよう、アナット・バニエルをもっと理解していきたいなあ。……ノーミソが欲しいなあ……(涙)


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