人気ブログランキング | 話題のタグを見る

手を伸ばしたのは壁の先

「人間はな。人生という砥石で、ごしごしこすられなくちゃ、光るようにはならないんだ」
   ----- 山本有三
       (日本人、作家・政治家、1887年7月27日生まれ)

* * * * *

【舞台】

     IMG_3824

ミュージカル「Billy Elliot」を観に行って来ました。
先日、「Cats」を鑑賞した際、劇場でポスターを目にして、あ、これは絶対行かないと!とお嬢と誓い合ったんですな。なんともささやかな誓いだな。

2005年、ロンドンはウェストエンドで初演を迎えたこちらのミュージカル、元々は同タイトルの映画(邦題は「リトル・ダンサー」)を舞台化したものであることは、ご存知の方も多いかと。
ロンドンでの大ヒットをひっさげて乗り込んだニューヨークでは、なんとトニー賞を10部門も受賞するという快挙を成し遂げたそうですよ。
そして2011年の今年、とうとうサンフランシスコまでやって来てくれたのでありました。




     IMG_3827

劇場内に入ると、ロビーに据えられた看板の前に人だかり。
書かれていたのは、ストーリーの時代背景の説明でした。
つまり、マーガレット・サッチャーが首相をつとめた1980年代、英国北部で起こった、大規模な炭鉱ストライキについて、なのですね。
主人公ビリーの父親と兄が炭鉱労働者であり、そのストライキの真っ最中にダンサーを目指す少年の物語であるので、それがわかってないと、ストーリーがぐっと浅くなってしまうので。
とりあえず、Wikiの説明(英語)はこちらです。

舞台は英国のCounty Durham、炭鉱夫達のストライキにより、毎日がぴりぴりと暗い日々。
母を亡くし、父と兄、そして祖母と暮らす、11歳の少年のエリオットは、父に強制されて習っているボクシングがどうしても好きになれず、鬱々と稽古に通ってます。
ところがある日、ボクシングと同じ建物内で行われていたバレエ教室の様子を目にして、どうしようもなく惹かれるものを感じた彼は、とうとう少女達に混じって、一人レッスンを受けることになるのです。
バレエ教師のMrs. Wilkinsonは、ビリーの才能を見抜き、ロイヤルバレエ学校のオーディションを受けるように薦めます。
ところが、バレエのことを知った父親は激怒。バレエなど、女のやることだ、と大反対。
果たしてビリーは、ダンサーの夢を叶えることができるのか?

とまあ、こんな感じでどうでしょう。(誰に聞いてる)
ディレクターのスティーヴン・ダルドリーは、映画「リトル・ダンサー」の監督でもあります。そして音楽は、サー・エルトン・ジョン


IMG_3826

さて感想は、というと。
いやもう、相変わらず、じゃないな、いつも以上に英語がわからねえええええ!(絶叫)
イギリス英語は日本人にはわかりやすいと言われているようですが、カリフォルニア訛りやスパニッシュ・チャイニーズ・ヒンドゥ訛り(…)から英語に入った身にとっては、くっそおおお、と地団駄踏みたくなるぐらい。(オマエだけだ)
英語ネイティブなお嬢達から、ブリティッシュ・アクセントは憧れだ、と言われたところで知るもんか。
加えてこちらの舞台、更に地方&労働者階級訛りが入っている(らしい)ので、手も足も腹も出なかった箇所が幾つも。幾つも。

何とかかんとかわかったところを、想像力で繋ぎながらの鑑賞でしたが(しくしく)、期待通りに楽しい舞台でございましたよ。
舞台セットも豪華だし、照明も凝っていて。ステージの上下左右を、切り換えたり組み合わせたりの細かい工夫により、臨場感溢れる仕上がりになっていました。

そして、ダンスの迫力ったら。バレエあり、タップあり、パ・ド・ドゥから空中フライングまでやっちゃうよ。
脇役・端役も素晴らしく、炭鉱夫達の切なさ・苦しさ・諦観もしっかり表現されていて、最後は場内総立ちの拍手で終わりましたとも。


サンフランシスコでの「Billy Elliot」、主役のビリー役には、なんと5人の子役が控えてます。
その日が誰になるのか、それは行ってみてのお楽しみなんですが、私達が会えたのは、15歳のオーストラリア人、Daniel Russell君。
幼い頃からタップ、バレエ、ジャズ、モダンを習ってきたという彼のダンスや歌は、大人に比べたら拙さはありましたが(当然)、至極真っ直ぐで一生懸命・基本に忠実な踊りで、とても良かったです。
お嬢によれば彼の話す言葉は、「英国発音にしようと頑張ってるけど、ちょっとコックニーっぽいオージー(豪州)イングリッシュ」だったそうですが、そうか、オーストラリアって英国の罪人の流刑地だったから、コックニーが元になってるのかもなあ、なんて思ったり。

お嬢と私の一番の贔屓は、ビリーのおばあちゃんと、ゲイの友達のMichael。
おばあちゃんの情熱(?)溢れるダンス、そして、マイケルのボーイソプラノの愛らしさ。
おばあちゃんの中指立てと、マイケルのスカートやチュチュ姿に、場内は大いに沸きましたぞ。

そしてバレエの先生、Mrs. Wilkinson。
Faith Prince演じる彼女の、ぶっきらぼうな振舞いの影に、あれだけの情熱と愛情が隠れていようとは。
ビリーの父親とのやりとりには、思わず涙がにじみます。

ビリーのお兄さんのTonyも良かったなあ。
若さゆえの悔しさを目一杯表現してて、でも、最後にはビリーへの愛しさを。
お父さんやお兄さんを中心として、炭鉱夫ゆえの悲哀がしっかり描かれていて、最後の敗北の辺りでは、こちらまで溢れた涙と痛み。


ビリーがバレエにのめりこんでいく過程と、ストが収拾に追い込まれていく過程、そしてビリーがダンサーになれるかどうかの試練の道のりが、全て繋がって広がって、クライマックスに向かって進んでいきます。
それは、不当に搾取される労働者の悲しみであり、生まれを選べなかった者の悔しさであり。
生まれた時から決められたもの以外の選択肢はないのか、という、英国の階級社会の歪みと葛藤と理不尽さの全てが、オーディションの時のビリーに集中したような。

「踊ってる時、どんな気持ちだい?」と試験官に聞かれて、彼は歌とダンスで答えます。
「Electricity sparks inside of me and I'm free, I'm free!」

育ちが違う、生まれが違うということが、これほどまでに重い事実。
それが、この世界のどれほどの場所で、当然とされていることか。

マイケルの見送りを受けて旅立つビリーに、どんな未来が待っているかはわかりませんが。
夢を夢として見ることの幸せが、それがゆえに背負い込む苦しさをも凌駕してくれることを、心から願ってしまうのです。


最後に、2008年と古いのですが、よろしければ予告編の動画をお楽しみくださいませ。

Billy Elliot the musical trailer




BILLY ELLIOT
June 27, 2011 - August 21, 2011
Orpheum Theatre
1192 Market Street
San Francisco, CA 94102

*-*-*-*-*-*-*-*-*

今回の素朴なギモン。
監督の名前、Stephenなのに、なんでスティーヴンなの。
SFでの公演、最初は9月17日までだったのに、なんで今はHPで8月21日までになってるの。
by senrufan | 2011-07-27 10:53


<< 融和を図る才覚を 手を加えるラインをどこに引く >>