君を導く声を聞け

「あるよ、それは『嘘』さ」(表現できないものはありますか?という問いに対して)
   ----- マルセル・マルソー
        (フランス人、パントマイム役者、1923年3月22日生まれ)


震災のニュースを見ながら、思い出していたのですけど。
私が5年前にLASIK手術を受けた理由には、災害への備えもあったのですね。
  (LASIK体験談 : 1 2 3 4

小3からコンタクトという、筋金入りの近眼っ子だった私は、常にメガネは手放せない身であって。
なので、お嬢が生まれてから後、
「いざという時、メガネがなかったら、この子をどうやって守ればいいんだろう
という思いが沸いてきたのは、ごく当然のことだったのです。


飛行機に乗った時、最初に、非常事態の際の対処についての説明がありますよね。
あの中で、酸素マスク装着の説明の時に、
「まず自分がつけて、それから他の人を手伝ってください」
と述べられているのは、すごく意味があることだなあ、と最近気づかされました。

子供を、家族を、友達を助ける為には、まずは自分を助けないとできなくて。
大事な人を大事にするには、まずは自分を大事にしないと始まらないのですね。

これほどの大きな震災が起こって、安全な場所にいることで罪悪感を感じ、何もできない自分自身を責めてしまいがちですが。
それでも何とか心を折らず、ここでの生活をしっかりと送ることが、自分自身を助けることになり。
ひいてはそうすることで、ここでできることに自分の目を向けて、一つ一つこなしていく力を出せれば、それが遠く離れた人達を助ける為の、ハチドリの一滴になるかもしれないので。


アメリカに来て、ボランティアという素晴らしい文化を知ることができたことを、とても嬉しく思っております。
そして参加するたびに、人助けという利他的な理由と同様に、もしくはそれ以上に、人の為に役に立てるという利己的な喜びがあればこそ成せるものなのだ、ということを、肌で感じているのです。

* * * * *

【時事】

        IMG_2885

ご存知の方も多いでしょうが、作家の高橋源一郎氏が、卒業式が中止になった教え子達に、Twitterで「祝辞」を贈られました。

私の心に浮かんだのは、この春卒業した、彼女やMIHOさんのご子息、ゆみたちさんのご子息、
そして、福島大学を見学中に震災に遭い、心細い数日間を過ごした後、これから横浜で兄と一緒に暮らしながら、予備校生活を送ることになった、大事な大事な甥っ子の彼。

彼らは、まだ社会に出る立場ではないけれど。
高橋さんの言葉は、立場を超えて、年代を超えて、確かに核となるものだから。
この言葉を贈れるものなら、どうか胸に刻んで、これからの道を真っ直ぐに歩いていってくれますように、と願わずにはいられないのです。




*-*-*-*-*-*-*-*-*


予告

今夜は、「小説ラジオ」をやります。
最近フォローされた方はご存じないかもしれませんが、一つのテーマでの連続ツイートです。
長い時には、2時間近く続くので、フォローを解除されてもけっこうです。

土曜日は、ぼくが勤めている大学の卒業式がある日でした。しかし、「非常時」のため、卒業式はなくなりました。
けれども、その日、学生の3分の2ほどは、少々、着飾って、卒業式のない学校に集まったのでした。行くあてもなく、学内を彷徨する学生たちは難民のようでした。

結局、学生たちは、いつしか学内のホールに集まり、予定されたプランのない「卒業式」のようなものを行ったのでした。
ぼくは、その場所へ「祝辞」を書いて持って行きました。けれど、ひどい風邪で声が出ず、またいささか長かったので、それを朗読することはありませんでした。

今晩の小説ラジオは、そこで朗読するつもりだった「祝辞」です。
それは、卒業式ができなかった学生諸君すべてへ贈ることばでもあります。タイトルは「「正しさ」について」です。
では、あと2時間後、午前0時にお会いしましょう。


「午前0時の小説ラジオ・震災篇」・「祝辞」・「正しさ」について

今年、明治学院大学国際学部を卒業されたみなさんに、予定されていた卒業式はありませんでした。代わりに、祝辞のみを贈らせていただきます。

いまから四十二年前、わたしが大学に入学した頃、日本中のほとんどの大学は学生の手によって封鎖されていて、入学式はありませんでした。
それから八年後、わたしのところに大学から「満期除籍」の通知が来ました。それが、わたしの「卒業式」でした。

ですから、わたしは、大学に関して、「正式」には「入学式」も「卒業式」も経験していません。
けれど、そのことは、わたしにとって大きな財産になったのです。

あなたたちに、「公」の「卒業式」はありません。それは、特別な経験になることでしょう。
あなたたちが生まれた1988年は、昭和の最後の年でした。翌年、戦争と、そしてそこからの復興と繁栄の時代であった昭和は終わり、それからずっと、なにもかもが緩やかに後退してゆきました。

そして、あなたたちは、大学を卒業する時、すべてを決定的に終わらせる事件に遭遇したのです。おそらく、あなたたちは「時代の子」として生まれたのですね。
わたしは、いま、あなたたちに、希望を語ることができません。あなたたちは、困難な日々を過ごすことになるでしょう。

あなたたちの中には、いまも就職活動をしている者もいます。仮に就職できたとして、その会社がいつまでも続く保証はありません。
かつて大学生はエリートとされていました。残念ながら、あなたたちはもはやエリートではありません。この社会に生きる大多数の人たちと同じ立場なのです。

だからこそ、あなたたちの生き方が、実は、この社会を構成する人たちみんなの生き方にも通じていることを知ってください。
わたしは、この学校に着任して六年、知識ではなく、あなたたちに「考える」力を持ってもらえるよう努力してきました。
その力だけが、あなたたちを強くし、この社会で生き抜くことを可能にすると信じてきたからです。

あなたたちは、十分に学びましたか? だったら、その力を発揮してください。
まだ、足りないと思っていますか? では、社会に出てからも、努力し続けてください。

あなたたちの顔を見る最後の機会に、一つだけ話したいことがあります。それは「正しさ」についてです。
あなたたちは、途方もなく大きな災害に遭遇しました。確かに、あなたたちは、直接、津波に巻き込まれたわけでもなく、原子力発電所から出る炎や煙から逃げてきたわけでもありません。

けれど、ほんとうのところ、あなたたちはすっかり巻き込まれているのです。
なぜ、あなたたちは「卒業式」ができないのでしょう。それは、「非常時」には「卒業式」をしないことが「正しい」といわれているからです。
でも、あなたたちは納得していませんね。

どうして、あなたたちは、今日、卒業式もないのに、少し着飾って、学校に集まったのでしょう。
あなたたちの中には、少なからず疑問が渦巻いています。その疑問に答えることが、あなたたちの教師として、わたしにできる最後の役割です。

いま「正しさ」への同調圧力が、かつてないほど大きくなっています。
凄惨な悲劇を目の前にして、多くの人たちが、連帯や希望を熱く語ります。それは、確かに「正しい」のです。
しかし、この社会の全員が、同じ感情を共有しているわけではありません。

ある人にとっては、どんな事件も心にさざ波を起こすだけであり、ある人にとっては、そんなものは見たくもない現実であるかもしれません。
しかし、その人たちは、いま、それをうまく発言することができません。なぜなら、彼らには、「正しさ」がないからです。

幾人かの教え子は、「なにかをしなければならないのだけれど、なにをしていいのかわからない」と訴えました。
だから、わたしは「慌てないで。心の底からやりたいと思えることだけをやりなさい」と答えました。彼らは、「正しさ」への同調圧力に押しつぶされそうになっていたのです。

わたしは、二つのことを、あなたたちにいいたいと思っています。
一つは、これが特殊な事件ではないということです。
幸いなことに、わたしは、あなたたちよりずっと年上で、だから、たくさんの本を読み、まったく同じことが、繰り返し起こったことを知っています。

明治の戦争でも、昭和の戦争が始まった頃にも、それが終わって民主主義の世界に変わった時にも、今回と同じことが起こり、人々は今回と同じように、時には美しいことばで、「不謹慎」や「非国民」や「反動」を排撃し、「正しさ」への同調を熱狂的に主張したのです。

「正しさ」の中身は変わります。けれど、「正しさ」のあり方に、変わりはありません。
気をつけてください。「不正」への抵抗は、じつは簡単です。けれど、「正しさ」に抵抗することは、ひどく難しいのです。

二つ目は、わたしが今回しようとしていることです。
わたしは、一つだけ、いつもと異なったことをするつもりです。それは、自分にとって大きな負担となる金額を寄付する、というものです。それ以外は、ふだんと変わらぬよう過ごすつもりです。

けれど、誤解しないでください。わたしは「正しい」から寄付をするのではありません。
わたしはただ寄付をするだけで、偶然、それが、現在の「正しさ」に一致しているだけなのです。
「正しい」という理由で、なにかをするべきではありません。「正しさ」への同調圧力によって、「正しい」ことをするべきではありません。

あなたたちが、心の底からやろうと思うことが、結果として、「正しさ」と合致する。それでいいのです。
もし、あなたが、どうしても、積極的に、「正しい」ことを、する気になれないとしたら、それでもかまわないのです。

いいですか、わたしが負担となる金額を寄付するのは、いま、それを心からはすることができないあなたたちの分も入っているからです。
三十年前のわたしなら、なにもしなかったでしょう。いま、わたしが、それをするのは、考えが変わったからではありません。ただ「時期」が来たからです。

あなたたちには、いま、なにかをしなければならない理由はありません。その「時期」が来たら、なにかをしてください。
その時は、できるなら、納得ができず、同調圧力で心が折れそうになっている、もっと若い人たちの分も、してあげてください。共同体の意味はそこにしかありません。

「正しさ」とは「公」のことです。「公」は間違いを知りません。
けれど、わたしたちはいつも間違います。しかし、間違いの他に、わたしたちを成長させてくれるものはないのです。
いま、あなたたちが、迷っているのは、「公」と「私」に関する、永遠の問いなのです。

最後に、あなたたちに感謝のことばを捧げたいと思います。
あなたたちを教えることは、わたしにとって大きな経験でした。あなたたちがわたしから得たものより、わたしがあなたたちから得たものの方がずと大きかったのです。ほんとうに、ありがとう。

あなたたちの前には、あなたたちの、ほんとうの戦場が広がっています。
あなたを襲う「津波」や「地震」と、戦ってください。挫けずに。
さようなら。善い人生を。

今晩は、ここまでです。聞いてくださったみなさんに感謝します。

*-*-*-*-*-*-*-*-*

作家・高橋源一郎(@takagengen)さんの「震災で卒業式をできなかった学生への祝辞」より
   まとめてくださって、本当にありがとうございました。
[PR]
by senrufan | 2011-03-22 10:56 | Trackback | Comments(10)
トラックバックURL : http://senrufan.exblog.jp/tb/15092817
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by IAmyukko at 2011-03-25 02:27
みゆきさん

お久しぶりです。ゆっこです。
今の子供たちは、本当に混沌とした時代に生きている気がします。その目で見て感じたことを、これから生きていく未来に絶対に生かして欲しい、絶対生かせると信じています。

赤十字のうわさには、驚きました。確かに「他にまわす」と書いてあったのは知っていましたが、もう一杯になった・・・と一体どこに?うわさって怖いですね。前の記事を読んで、ほっとしました。是非私のブログでも紹介させてくださいませ。
Commented by ayumin_moo at 2011-03-25 03:15
いい祝辞ですね。
「あなたたちが、心の底からやろうと思うことが、結果として、「正しさ」と合致する。それでいいのです。」
偽善ではない、体から染み出る正しさ。
自分もこうありたい。娘にもこういう人間になってほしい。
しみじみと、感じました。

娘に「母ちゃんは何があってもあなたを守る」と言ったら、オットに「俺は?」と聞かれました。
自分の身は自分で守ってもらいます。苦笑
Commented at 2011-03-25 05:00
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Miyuki at 2011-03-25 08:13 x
*ゆっこさん
お久しぶりです~! といいつつ、ゆっこさんの素敵な記事は変わらず拝見しておりますvv
今の子供達は、私達の頃に比べて、なんて複雑で多様な世界にいるんでしょうね。そういう時代を作ってしまった大人の一人として、責任を感じております。だからこそ、ゆっこさんのおっしゃる通り、どうかこの経験を無駄にしないで生かしてほしい、と切に願わずにはいられません。

色々言われても、やはり赤十字が一番、と思ってるところがあった分、かなりの衝撃でした……ぜひぜひゆっこさんブログでも取り上げて、広めてくださいませ!

Commented by Miyuki at 2011-03-25 08:18 x
*ayuminさん
本当に、しみじみと感じ入る祝辞ですよね。
人気作家さんが、こういう状況の中で、こういう内容を公けにするのは、かなりの勇気もいることと想像できる分、余計に心に染みました。
私も、こういう大人になりたいです。って、まだ変われるのか自分……

んまあ、その言葉、録音しておきたかったですね~。そしてそぶ子ちゃんの思春期の時に聞かせるの。
え、旦那って、守らなきゃいけないんでしたっけ?(耳掃除しながら)
Commented by Miyuki at 2011-03-25 08:21 x
*非公開コメントさま
わざわざお知らせくださって、本当にありがとうございます! お言葉に甘えて、早速追加させていただきました。
このような素敵な企画を実行してくださることに、心から感謝致します。どうか多くの方が訪れてくださるセールになりますようにvv
Commented by yumikodi at 2011-03-26 11:43
今日お会いできてよかった!
祝辞も教えてくれてどうもありがとう。
子供達の未来、お嬢と小僧の未来にも、彼らを信じて、今私達がふんばってきばらなくちゃね。

え、旦那って、以下略(鼻ほじほじしながら)。
Commented by Miyuki at 2011-03-26 14:34 x
*ゆみたちさん
今日はわざわざありがとうございました~!
守るものがあるということの意味を、しみじみと教えられた祝辞でございましたね。そろって、きばってまいりませう。

そう、旦那って、(ピーッ)(放送禁止)
Commented by KYOKO_MATSUNAGA at 2011-04-02 14:41
イベントご紹介いただきありがとうございました!
お礼が遅くなってしまって、すみません。
小さな活動ですが、地道に続けていく予定ですので、
今後ともよろしくお願い致します。
Commented by Miyuki at 2011-04-03 00:38 x
*KYOKOさん
こちらこそ、素敵なイベントのご連絡をありがとうございました!
いよいよ今日・明日ですね♪
来月半ばまで家庭内の事情で土日の日中に動けず、今回は涙をのんで諦めますが、2回目はおじゃまさせていただく気満々です。KYOKOさんのノートに一目ぼれ状態なのですvv
素晴らしいセールを、どうかエンジョイしてくださいね!


<< American Red Cr... 手塩にかけて、時間をかけて >>