あの日、あの時、繋いだ手 (5)

「人間には、先入観が気づかぬうちに働きまして、そんなことはわかりきったことだと素通りすることがあります。これが怖いのです」
   ----- 松本清張
       (日本人、作家、1909年12月21日生まれ)

* * * * *

【雑事】

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考えてみれば、親からほめられた記憶はほとんどありません。

それどころか、今でも覚えているのですが。
以前、ピアノを全然練習しない私に対して、母が小言を言った時。
この前も先生はほめてくれたと言ったら、両親は、それはお世辞だから信じるな、と。
じゃあ、私がほめられることは全部お世辞なの?と聞き返したら、あんたがほめられることはないと思え、と言われたことが、不思議なほどくっきりと記憶に残ってるのですね。

くっきりなので、今思い返してみれば、その時の両親の顔は笑い混じりでありましたから、本気ではなかったのでしょうし。
練習もしないで、ほめられたからいいんだ、なんて言ってるクソガキには、親としてそれぐらいのことを言ってもおかしくないし。

でも、これほど覚えているということは、その頃の子供の心では、そんな背景や理屈はわからず、ただ、自分はほめられるに値しない子なのだ、という悲しい思いに繋がったから、なのかもしれず。
それは記憶とは反対に、どこかぼんやりとした、あーそうなんだー……、といったような、空虚な納得感をもって、私の中に居座ったのであります。




私は自分に対して、相当のコンプレックスの持ち主で。
親と兄が何でもできることもあって、家族の中で唯一の劣等生である上、外見もどこをどうとっても、良いと思える箇所がなく。
ただ、家族からそんなことを言われたことは一度もないし、むしろ好きなようにさせてくれた家族に恵まれたことは、子供心にもわかっていて。
おかげで思春期の惑い時にも、家族への嫌悪どころか、尊敬と憧れだけが募って、それに対して、何もできない自分への落ち込みだけを、ひたすらに掘り下げていったのです。

思春期を過ぎて、大学、就職を経て。その間、やはり両親が自分の親でいてくれたことを感謝こそすれ、悲しく思ったことはありません。
放任でありましたが、それは私を信頼してくれてのことであったとわかっていましたし、何かがあった時は必ず助けてくれる、という、こちらからの信頼がありましたから。

ただ、我が家の流儀で、それをお互いに口にすることは決してなくて。
むしろ、けなし合い・茶々の入れ合いの応酬。悪口は、必ず本人の目の前で。(びしっ!)
大好きなんて、意地でもゆうもんか。実はかなり思っているけど、口にしたら照れまくっていたたまれない。
それがうちの愛情の示し方であって、傍からどう見えても、それでいいのだ、と思ってました。

それでも子供を持った時、うんとほめて育てよう、と思ったのは。
どこかで親にほめられたい、言葉にして認めて欲しい、という気持ちを、ずっと抱えていたのかもしれません。

ところが、実際の私の子育てたるや、結局親にされたように、娘に接しただけ、だったのです。


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欧米流にほめて育てよう、ということが日本で言われるようになったのは、どれぐらい前からだったのか。
でもこれって、日本ではなかなか上手くやってのけるのが難しいことなのかも、と思われるのは、お嬢が小さい頃、周囲を見て感じていたことであります。

こちらで子育てをしていて、当然、現地の子とも日本人の子とも、色々とお付き合いがあったわけですが。
比較すると、行儀が悪かったり、人前で親に逆らったりする子は、なぜか日本人の子に多く。
それも、外に出ている間ほど。親が周囲の目を気にして叱れないことを薄々わかっていて、そこで発散するかのようなはしゃぎっぷり。
そして家に帰るよ、となった時、帰ったら叱られると思って、急に焦っていい子になろうとする、とかね。

現地の子とのプレイデート時には、更に彼らとの差が印象に残り。
私の周りの現地の親子は、家でも外でも変わらない場合が多く。むしろ日本の子とは逆に、家ではリラックスして、外ではがんばろうとしてみたり。
そうやって外と内を分けるようになったことは、成長の証でありますし、日本人の子が皆がそうだったわけでは決してありません。(強調)
しかし少なくとも、外で親を叩いたり蹴ったりするのは、日本人以外の子では見たことがありませんでした。

周りの人を気にするように育てるのは、むしろ日本流と思うのに。
なぜ外に出た時に、それが逆方向に向かってしまうのか。
正にその日本流であるところの、周りの人に迷惑をかけちゃだめ!とピリピリするばかりの子育てを展開していた私が、こちらで抱いた数々の疑問の一つでありました。


ほめて育てよう、と思っていたはずなのに。
お嬢が正にほめてほしいところで、ここでほめたらゴーマンになって、周囲から嫌われる子になるのではないか、という危惧が先に立ち。
彼女が泣いている時でも、誰かに腹を立てている時でも、客観的になることを優先させて、100%の味方になることをせず。

悲しいだろうけど、それはあなたがああしたことも悪かった。
悔しいなら、あの時にそうすべきではなかったでしょ。
それは、たとえ正しくとも、小さい子にそのまま言うべきことではない言葉。

大きくなったらわかるわよ、という言葉ではなく。
まず発するべきは、その時点で相手に一番伝えるべき言葉を、その時に理解できる形で差し出すこと。

それが、まずは相手の気持ちを受け入れた後で、ということは、言われるまでもないことなのに。
この失格母ちゃんときたら、親としての責任を重視するがゆえに、そんな簡単で大切なことが、なかなかできなかったのです。

私自身がほめられることがなかったから。
それで平気であったのは子供の私であって、お嬢という子ではない、という事実。
頭ではわかっていて、理性では数え切れないほど自分に言い聞かせ続けてきて、実際にある程度はできている、と思っていたことが。

子供とは全く別の人間で、その子だけの感じ方と自尊心があって。
その子なりの美点と欠点を備えながら、未熟なりに全身でもって、親に向き合っている存在で。
だから親として、大人として、私のするべきことは、決して周囲の人をまず考慮することを教えるのではなく。

ただ、ありのままの彼女を受け入れて、その時の彼女の気持ちを汲んで、その時の彼女が理解できる言葉を与えてあげること。
現地でも日本でも、私の尊敬するお母さん達が、何度も身をもって教えてくれたこと。
日本的美徳にこだわって、自分の育ちにとらわれた私には難しくとも、そうでない人には、そして現地の人にはもしかしたら、より自然で当たり前のこと。

どんな育児書にものっているような、「育児の本質」を。
自分の身体と心のもっと深いところで、ようやく実感できたのは、彼女が思春期を迎えてから、でありました。
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by senrufan | 2010-12-22 20:54 | Trackback | Comments(10)
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Commented by lizzyco at 2010-12-23 05:19 x
私もMiyukiさんと同じ事を母親から、しかしうちの場合は真顔で、言われました。未だ、その時の事を思い出すと、『唖然』とした、ホカンとしたミルク色の空気に包まれた映像で浮かび上がります。母親の必死とも言える憎々しげな目つきと共に。
故に、私の子育て法はその時点で決まりました。何があっても子供は褒めて育てる。が、一人目は失敗しかけましたね。
思うに、子供を褒める所作というのは周囲との戦いでもあるのです。『周囲に』傲慢と思われないか、変だと思われないか、それは親子共々に。そして親バカだと思われないか。
要するに、親のさじ加減一つだったのだなぁ、と。
下三人はそれに気づけた後でしたので、徹底的に褒めました。もちろん、ぐさりと楔を打ち込む事もしつつ。飴と鞭。
子供が子供なりに感じる事をそのままに受け止めて初めて親子の絆は繋がります。断定です。そこが一番、親として難しい部分でもあるかもしれないです。
Commented by Miyuki at 2010-12-23 19:12 x
*lizzycoさん
なんと、そうでしたか……それは切なくも痛い記憶ですね。私の場合は経緯がわかっているので、あとで咀嚼もできましたが、小さいlizzycoさんにはさぞ辛かったことでしょう。
おおお、さすがでいらっしゃいます! そなんですよね、結局親側が周囲を気にしてしまうことから、どれだけ抜け出せるかということなんですよね。うちは一人だけなので、数々の失敗を今後生かすこともできないので(涙)、なんとか彼女との絆を堅固なものにできるよう、日々私が成長していかねばなりませぬ。
おっしゃる通り、どれだけ子供を受けとめて、受け入れていけるかが全てのような気がします。受け入れる為には、親側がそれだけの余裕と器がなければならないので、本当に難しいのですが、同時にそうやって子供と一緒に成長していけることが嬉しくもあり。子供という存在に感謝することばかりです。
Commented by ゆりこ at 2010-12-24 01:39 x
こんばんは~♪
私も、ほめられた覚えはないですねぇ~・・・・・・
常に「ほめられたい!」って思いながら育ったような記憶があります。
結婚したら、「ほめられたい?何言ってるの?」の世界でしょぉ~?!

私も自分の子供はほめよう!と心に刻んでたんですが・・・・・あれ?って(苦笑)
私も子供には感謝でいっぱいですねぇ~。こんなお母さん出良かったのかしら?
もっと違う人がお母さんなら?なんて落ち込む事もあったりして^^;
今は、どっちが親の役なんだか~って感じで子供に甘えてばかりで(^◇^)
長女の結婚式に、長女が「ママが大好きです!今のままのママでいてね」
って言ってくれて・・・え?こんなドジママでいいの?って思いましたが
それより号泣しちゃって(あははは)
日本は、世間体っていうのが前面に出てくるでしょぉ~?
まぁ~世間体も大事だけど、もっと大事な事があるよなぁ~って思うこの頃ですぅ~

日本では、今日(昨日ですね)、天皇誕生日でした♪今日がクリスマス
すぐにお正月!!忙しい国だわね~(^-^)
Commented by さまんた at 2010-12-24 09:26 x
自分の子育てが親の影響を受けている…とても共感します。
私もあれだけ親を反面教師としようと思っていたのに、やってることはほとんど同じ…三つ子の魂百までという諺を思い出しては自制しようとしてるんですが、これがなかなか。
『ありのままの彼女を受け入れて、その時の彼女の気持ちを汲んで、その時の彼女が理解できる言葉を与えてあげること』←心に刻みつけます。そしていつか上のコメントの方みたいに言ってもらえるようになれたらいいなぁ。
Commented by matsathome at 2010-12-24 10:00
親から「みっともない」と言われて育った私は相当のコンプレックスの持ち主です(笑)時々、もしアメリカ人みたいにほめられて、親からぎゅーっと抱きしめられて育っていたら自分の人生は違っていたかも?と思ってしまうぐらいです。すごーく、うらやましいのですが、あの頃はそんな時代じゃなかったと自分に言い聞かせることにしています。
Commented by Miyuki at 2010-12-24 21:30 x
*ゆりこさん
私達の世代までは、そういうやり方ではなかったですよねえ。
ほめること自体は良くとも過保護はいけないし、そのさじ加減が肌でわかってない世代、とも言えるかも。

お嬢さまの言葉、私だったら大泣きしてしまいますー! ううう、さすがゆりこさんのお嬢さまだわ~~~。
そうそう、そのままのママでいいんですよ。素敵なお母様なのですっ!
世間体にしばられたくないと言いつつ、気にせずにいられない自分が悲しいです……でもほんとに、もっと大事なことがあるんですよね。

うふふ、慌しくも楽しいホリディシーズンですよね。
クリスマスケーキは作られましたか?♪
Commented by Miyuki at 2010-12-24 21:33 x
*さまんたさん
おお、共感していただけますか~。
ほんとにね、私なんか随分と放任にしてもらえたのに、それでも縛られてしまうものがあるんですよね。
さまんたさんなら、素晴らしいお母様になられることと! その為にも、ここで私の赤っ恥記録をさらしていきますので、これこそどうか反面教師にしてくださいませー。
Commented by Miyuki at 2010-12-24 21:35 x
*Sarahさん
そうそう、ほめて育てられてたら?とは私も良く考えます。でも同時に、おかげでこうなれた、というプライドがある点もあって、どちらがどうとは言えないんですが~。でもなんだろうなあ、ほめられないことが悪いことなら、もっと私達、ぐれてたはずですよねえ……そう考えればフクザツになっちゃうので、まあ今の世代に合わせてやっていこうと思います(笑)
Commented by kako_usa at 2010-12-26 22:56
Miyukiさん、こんにちは~

マメにRSSを確認していたはずなんですけど、見逃していたようでこの記事から、2つ続けて読ませて頂きました~嬉しい♪
以前から、現地の子と日本人の子(ハーフの子を含む)の行儀について疑問があったんですけど、つい先日、国際結婚をしているお友達の一言で謎が解けた気がしました。ブログでも紹介する予定ですが、結論から言うと訴訟の国アメリカ。この一言で終わる気がしました。

子育て中の私には、とてもありがたい内容でした(感謝)
私もあまり褒めて貰った記憶はないですね。姉がよく出来る人だったので、比較はかなりされていました。アメリカ人って、挨拶の次に「あなたの洋服素敵ね~」とか、「そのアクセサリーどこで買ったの?私の好み」って、本題の前に必ず言いますよね。私は、娘にはアメリカ人のように褒め上手な子になって欲しいな~と思っているので、何でもいいから褒めるようにしています。「その洋服、可愛いね♪」って、私が買ったんだけど・・・ぶふふっ^^;
Commented by Miyuki at 2010-12-28 00:00 x
*kakoさん
こんにちは~vv
そなんですよ、RSSって時々反映されないことがあるらしく。実は私もkakoさんの最新記事を見逃していたことに気づいて、先ほどコメントさせてもらったところでした。

おおっ、そうか、そういうことなんですか!>訴訟 それにしても、それ対策であっても、言い聞かせる親に従う子供達の図、あれはどうしてできるの??と、いつもうらやましくも不思議だったんですよ。これはkakoさんの記事が楽しみですー!

そうやってほめてくれるお母さんがいてくれて、ランちゃんは幸せですよ、絶対(じ~~ん) 私の子育て記録は、全て「失格ママの恥さらし」のつもりで書いてますので、どうかこうなっちゃいけない見本として使っていただければ本望です。


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